2^(1/2^(1/2^(...)))はどんな値?
この記事は、「日曜数学 Advent Calendar 2019」 の21日目の記事です。
昨日はasangi_a4acさんの「106以上の実数」でした。 冬の寒さに匹敵するホラーで巨大な記事でした。
こんにちは、トッチです。普段は電気系の高専生に擬態しながら趣味で環論や力学系について勉強しています。今回は力学系の話題になります。
退屈な授業での発見
夏休みの少し前、退屈な電磁気学の授業で関数電卓を使って遊んでいたときのことです。私は以下の数式を関数電卓に打ち込みました。
$$\sqrt[\text{Ans}]{2}$$ ここで$\text{Ans}$には前の計算結果がそのまま入ります。十分多く「=」ボタンを押したところ、以下の数列が出現しました。
$$\dots,1.559610469, 1.559610469, 1.559610469, 1.559610469,\dots$$ この数字は一体なんだろう?そんなわけでそれから私はこの数式と数列について色々調べました。
漸化式と2つの性質
私が電卓に打ち込んだ数式をもう少しキチンと表すと以下のようになります。
$$ \tag{1} x_{n+1} = \sqrt[x_n]{a}\ (\text{ただし}a\text{は0より大きい実数})$$
そうです。漸化式です。
私はこの漸化式について関数電卓を使って調べ、2つの性質を実験的に見つけました。
- $1 \leq a \leq 10$程度の範囲では$x_n$は最終的にある1つの値に収束する。
- $a$がそこそこ大きいとき(20以上)、$x_n$は最終的に2つの値を交互にとるように収束する。
というわけで、この2つの性質について、収束する値や$a$の範囲を調べるのが今回の目標です。
固定点の値と吸引的になる条件
$f_a(x)=\sqrt[x]{a}$とします。ここでは、性質1.がどのような値に収束するかについて調べるために$p=f_a(p)$を満たすような$p$について考えていきます。この$p$を$f_a$の固定点と呼びます。ということで、早速$p=f_a(p)$を解いていくと、
$$\begin{aligned} p&=\sqrt[p]{a} \\ &= a^{1/p} \end{aligned}$$ 両辺を$p$乗して、
$$\begin{aligned} \tag{2} p^p=a \end{aligned}.$$
この解を$p_a$とします。解析に必要な情報はここで十分なので、これ以上詳しくは調べません。
「もっと知りたい!」という方は以下の動画を見ると幸せになると思います。
パラメータ$a$と固定点$p_a$の関係は図1に示したグラフのようになります。
式$(1)$から$a$の最低値は$e^{-\frac{1}{e}}$であることが分かります。また、$1 \leq a$のとき、固定点は1つあり、$e^{-\frac{1}{e}} \leq a < 1$のとき、固定点は2つあることが分かります。
さて、性質1で、$a$がどんなときに収束していくかを見るために$x_i$と$p_a$の差$\epsilon_i=x_i-p_a$について考えます*1。そのような$a$では、$\epsilon_i$が$0$に収束します。$f_a$を$p_a$中心で一次近似すると、
$$\begin{aligned}x_{i+1} = f_a(x_i) &= p_a - \frac{a^{1/p_a}}{p_a^2}\ln (a)(x_i-p_a) + O((x_i-p_a)^2) \\ \therefore \epsilon_{i+1} &= -\frac{a^{1/p_a}\ln a}{p_a^2}\epsilon_i + O(\epsilon_i^2)\end{aligned}$$ を得ます。$a^{1/p_a}=p_a^{p_a\cdot1/p_a}=p_a$であることに注意し、$\epsilon_i$に比べて$\epsilon_i^2$が十分に無視できるとすれば、
$$\left|\frac{\ln a}{p_a}\right| < 1$$ のとき、$\epsilon_i\to0$となります。よって、$|\ln a|<p_a$を満たす$a$は性質1を満たすことが分かりました。ここで横軸を$x$, 縦軸を$a$として$x = |\ln a|$, $x = p_a$のグラフを描くと、図2のようになります。
ここで$x = |\ln a|$, $x = p_a$をそれぞれ変形すると$a = e^{\pm x}$, $a = x^x$ですから、図2より、$|\ln a|<p_a$を満たす$a$は、
$$\begin{aligned} a_1 &= e^{-x} = x^x,\\a_2 &= e^{x} = x^x \end{aligned}$$ を用いて$a_1 < a < a_2$を満たすことが分かります。実際に$a_1, a_2$について計算すると、
$$a_1 = e^{-\frac{1}{e}}, a_2 = e^e$$
となります。ここで、図2をもう一度みると、$e^{-\frac{1}{e}} \leq a < 1$のとき、2つある固定点のうち、収束するのは必ず大きい方であることが分かります。
今までは局所的な軌道が$p_a$に収束することについて言及してきました。ここに付け加えると、上記の範囲の$a$において、$x_{n+1} = f_a(x_n)$にクモの巣図法を適用すれば、任意の初期値$x_0 > 0$に対して漸化式$(1)$の固定点$p_a$に収束することが分かります。以上のことを纏めたのが次の命題です。
命題 1.
漸化式$x_{n+1} = \sqrt[x_n]{a}$は0より大きい任意の初期値$x_0$に対して$e^{-\frac{1}{e}} < a < e^e$のとき、$p_a^{p_a} = a$を満たす$p_a$のうち、もっとも大きいものに収束する。
余談ですが、$x^x=a$を満たす$x$を$a$の超平方根(super square root)といいます。つまり、上記の範囲の$a$においては漸化式$x_{n+1}=\sqrt[x_n]{a}$を電卓でポチポチと計算すると$a$の超平方根が計算出来るのです。
2周期点の値
続いて$p_{n+2} = f_a(p_{n}), q_{n+2} = f_a(q_n)$を満たす点─2周期点─について調べていきます。今回知りたいのは$p \mathrlap{\,/}{=} q$の場合なので、これを仮定します(このような場合、$p, q$は素周期2であると言います)。そのような点では$p=f_a(q), q = f_a(p)$となります。よって、次の連立方程式
$$\begin{aligned} p = \sqrt[q]{a}, q = \sqrt[p]{a} \end{aligned}$$ の解$(p, q)$とその解が存在する$a$の条件について調べていけばよいことになります。連立方程式を整理すれば、
$$ \tag{3} p^q = q^a = a$$ を得ます。これを解くために$q = tp$と置きます。ここで$t\mathrlap{\,/}{=} 1$とします。これを式$(3)$に代入すれば、
$$(p^{t})^p = (tp)^p.$$ 両辺を$\frac{1}{p}$乗すれば、
$$p^t = tp.$$ さらに両辺を$p$で割り、$\frac{1}{t-1}$乗すれば、
$$p = t^{\frac{1}{t-1}}$$ を得ます。$q = tp$でしたから、$q = t^{\frac{t}{t-1}}$です。また式$(3)$より$a = (t^\frac{1}{t-1})^{t^{\frac{t}{t-1}}} = t^{\frac{t^\frac{t}{t-1}}{t-1}}$です(肩に肩が乗っかってんのかい)。$u=\frac{1}{t}$とすれば、$t^{\frac{1}{t-1}} = u^{\frac{u}{u-1}}$となりますから、曲線$y = p(t)$と$y=q(t)$は$0<t<\infty$で動かせば一致します。横軸を$a$、縦軸を$p$としてグラフを描くと図3のようになります。どうやら$p$が存在する$a$には下限が存在し、上限は存在しないようです。
補題1.
$$\lim_{t\to\infty} t^{\frac{t^{\frac{t}{t-1}}}{t-1}} = \infty, \lim_{t\to0^+} t^{\frac{t^{\frac{t}{t-1}}}{t-1}} = \infty$$
(証明)
Wolfram Alphaの結果より。(めんどい)
下限については、2変数関数の条件付き極値問題 (Lagrangeの未定乗数法)として捉えれば解けます。
補題2. 正の実数$p, q$に対して
$$a = p^q = q^p$$ は下限値$a = e^e$をもつ。
(証明) $a = p^q = q^p$ の各辺の対数を取り、$\log a = q\log p = p\log q$の最小値について見る。
$f(p, q) = \ln a = q\ln p$,$g(p, q) = q\ln p - p\ln q$とする。$$\begin{aligned} f_p &= q/p, \\ f_q &= \ln p, \\ g_p &= q/p - \ln q, \\ g_q &= \ln p - p/q\end{aligned}$$
であるから、
$$\begin{aligned} f_p/g_p &=\frac{q/p}{q/p - \ln q}, \\ f_q/g_q &= \frac{\ln p}{\ln p -p/q}. \end{aligned}$$ ここで$f_p/g_p = f_q/g_q$と$g = 0$を同時に満たす$p, q$について調べる。
$$\begin{aligned} f_p/g_p &= f_q/g_q \\ (\ln p -p/q)q/p &= (q/p - \ln q)\ln p \\ \tag{4} 1 &= \ln p \cdot\ln q \end{aligned}$$
ここで、$g = 0$すなわち$\frac{\ln p}{p} = \frac{\ln q}{q}$と式$(4)$を組み合わせれば、
$$\begin{aligned} \frac{p}{\ln p} = e^{\frac{1}{\ln p}} \ln p \end{aligned}$$
これを頑張って解くと(増減表を用いた解き方しか思いつきませんでした。)、$\ln p = 1$、すなわち$p = e$を得る。同様に$q=e$となるので、$g(p, q)$は$x = y = e$で極値をとる。曲線$f(p, q) = 0$は端点を持たないので、極値のどれかが最小値、もしくは最大値となる。今、補題1.から$g(p, q)$は最大値を持たず、極値は$x = y = e$ただ一つなので、$g$は$g(e, e)$で最小値となる。(正確には$p\mathrlap{\,/}{=} q$なので$g(e, e)$は$g(p, q)$の下限。)
さらに、性質1のときと同様$f_a^2(x)$に蜘蛛の巣図法を適用すれば、$a > e^e$のとき、どんな初期値$x_0 > 0$からでも漸化式$x_{n+1}=f_a(x_n)$は2周期点$p, q$に交互に収束することが分かります。以上をまとめると次のようになります。
命題2.
任意の$a > e^e$に対して$x_{n+1} = \sqrt[x_n]{a}$は素周期2の周期点を持ち、任意の初期値$x_0$はその周期点に収束する。
ここまで、$a$に対する固定点と2周期点について調べてきました。まとめとして、次の図に$a$と固定点、2周期点の関係を示します。
図を見ると、2周期点が固定点の上下にあることがよく分かります。また、$a\to\infty$のとき2周期点は$0$と$+\infty$になることが分かります。
感想および余談
感想としましては、授業の暇つぶしからこんなに没頭できる問題と出会えてとても楽しかったです。次はどんな問題に出会えるかな?
それから、今回調べた漸化式に似たもので、すでに調べられているものがあるので紹介しておきます。
www.ajimatics.com
neqmath.blogspot.com
謝辞
今回の問題を一緒に取り組んでくれた友人達にここで感謝の意を述べさせていただきます。また、
補題2. について助言をくださった NKSΣさん(@nkswtr)、本当にありがとうございました。
夏休み中にやり残したこと
最後に、命題1つとそれに伴う系を示しておわりにしたいと思います。
命題3.
漸化式$x_{n+1} = f_a(x_n)$は素周期3以上の周期点を持たない。(証明)
$f_a(x) = \sqrt[x]{a}$が$(0, \infty)$上で単調増加であることを利用して背理法でしめす。$y = f_a(x), z = f_a(y), x = f_a(z)$とし、$x < y$とする。$f_a$は単調増加であるから、$$f_a(x) = y < z = f_a(y).$$ 同様に、
$$f_a(y) = z < x = f_a(z).$$ よって、$y < x$を得るがこれは仮定と矛盾する。$y < x$と仮定した場合も同様である。これにより素周期3の場合は示された。素周期が4以上の場合も同様である。
系.
正の実数$x, y, z$に対して、$$x^y=y^z = z^x$$ が成り立つとき、$x = y = z$である。
勿論、上の系は一般の場合$x_{1}^{x_2} = x_{2}^{x_3} = \cdots = x_{n-1}^{x_n} = x_{n}^{x_1}$に対して拡張できます。
明日はunaoya さんの「保型形式について何か書きます」です。
【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.6 (26日目)
前書き
この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」
- 作者: Robert Devaney
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- 発売日: 1989/01/21
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§1.6の演習問題
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」には演習問題の答えが付属していません。そのため、ここに載せた答案は間違っている可能性があります。間違い等に気づきましたらお知らせくださると助かります。
4.
$\Omega'$の全ての列は$\Omega_2$の列で、$s_j=0$ならば$s_{j+1}=1$を満たすとする。別の言い方をすれば、$\Omega'$の全ての列は$"0"$が$2$つ以上連続して出現しない。
1. $\Omega'$は$\omega$に対して不変であり、$\Omega$は$\Omega_2$の閉部分集合であることを示せ。
2. $\omega$の周期点は$\Omega'$で稠密であることを示せ。
3. $\Omega'$で稠密である軌道が存在することを示せ。
4. $\Omega'$において$\omega,\omega^2,\omega^3$の固定点はいくつあるか?
5. $\omega^n$の固定点の数を表す漸化式を見つけよ。ただし、$\omega^{n-1}, \omega^{n-2}$の固定点の数を用いよ。解答
1.
$\bold s\in\Omega'$に対して$\bold t=(t_0s_0s_1s_2\dots)\in\Omega'$は$\omega(\bold t)=\bold s$であるから、$\Omega'$は$\omega$に対して不変。
$\Omega'$の点列$\bold{s_0, s_1,\dots}$は$\bold{s'}=(s_0's_1'\cdots)$に収束するとする。このとき各$n$に対して$s_n'=s_n$を満たすような$\bold s_m$が存在する。$\bold s'$が$\Omega'$に属していないとすると、ある$j$が存在して$s_j=0$かつ$s_{j+1}=0$を満たす。しかし、そのような項が存在する$\bold{s}_n$は存在しない。よって矛盾。よって$\Omega'$の任意の点列の極限は$\Omega'$に属し、$\Omega'$は閉集合。2.
$\theta_n$を$\bold s$の$n$個目の$0$の項までを繰り返す列とする。ただし繰り返すときに$n$個目の$0$は含めない。e.g.) $\bold s=(0110111010101111\cdots)$に対して$\theta_3 = (0110111\ 0110111\ \cdots)$である。このとき$\theta_n\to\bold s.$
3.
$s^\ast=(\underbrace{01 11}_{1組}|\underbrace{011\ 101\ 111}_{2組}|\underbrace{0101\ 0111\ 1011\cdots}_{3組}|\cdots)$とする。つまり$s^\ast$を$0$が2つ以上連続しない数列の後ろに"1"を付けたもののみで構成された列とする。このとき$s^\ast$の軌道は任意の$\bold s\in\Omega'$を含んでいる。
4.
$\omega$の不動点: $(1\ 1\ 1\cdots)$で$1$つ
$\omega^2$の不動点: $(01\ 01\ 01\cdots),\ (10\ 10\ 10\cdots)$で$2$つ。
$\omega^3$の不動点: $(011\ 011\ 011\cdots),\ (101\ 101\ 101\cdots),\ (110\ 110\ 110\cdots),\ (111\ 111\ 111\cdots)$の$4$つ。5.
$\omega^n$の固定点の数$p_n$は$\omega^{n-1},\omega^{n-2}$のものを$p_{n-1},p_{n-2}$と表せば$p_n=p_{n-1}+p_{n-2}$となる。
理由として、$\omega^{n-1}$の固定点の繰り返している1フレーズに$"1"$を、$\omega^{n-2}$の固定点の繰り返している1フレーズには以下の規則で$"01"$または$"10"$を追加する。 1. フレーズが$0s_1s_2\cdots s_{n-2}$と$0$から始まっている場合には$"01"$を追加する。 2. それ以外の場合は$"10"$を追加する。このように改変されたフレーズを持つ点はどれも被ることがないため、その個数は$p_{n-1}+p_{n-2}$となる。あとはこれが$\omega_n$の固定点を全て網羅していることを示せばよいのですが、証明を思いつきませんでした。思いつき次第追記します。
5.
$\Omega_N$は自然数$1,2,\dots,N$の全ての数列で構成されているとする。$\Omega_N$上には自然なシフト写像が存在する。
1. $\Omega_N$において$\omega$はいくつの周期点を持つか?
2. $\omega$は$\Omega_N$に稠密な軌道を持つことを示せ。証明
1.
周期$n$の周期点は長さ$n$の$N$種の文字で構成された列を繰り返すことによって得られるため、その数は$N^n$。
2.
$\bold s^\ast=(0\ 1\cdots N|00\ 01\ 02\cdots N(N-1)\ NN|\cdots)$とすれば、$\bold s^\ast$の$\omega$による軌道は$\Omega_N$において稠密。
6.
$\bold s\in\Omega_2$とする。$\bold s$の安定集合$W^s(\bold s)$を$i\to\infty$のとき$d(\omega^i(\bold s),\omega^i(\bold t))\to0$となるような$\bold t$の集合として定義する。そこで、$W^s(\bold s)$の全ての列を識別せよ。
解答
$\ast$を$0$か$1$のどちらも取りうるものとする。$W^s(\bold s)$の元は
$$(s_0s_1s_2\cdots),(\ast s_1s_2\cdots), (\ast \ast s_2s_3\cdots),\dots$$
今日の数学はここまで。続きはまた明日。
【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.6 (25日目)
前書き
この記事はRobert L. Devaney著
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§1.6の演習問題
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」には演習問題の答えが付属していません。そのため、ここに載せた答案は間違っている可能性があります。間違い等に気づきましたらお知らせくださると助かります。
1.
$$\begin{aligned} \bold s=(001\ 001\ 001\ \cdots) \\ \bold t=(01\ 01\ 01\ 01\ \cdots) \\ \bold r=(10\ 10\ 10\ 10\ \cdots)\end{aligned}$$ とする。次を計算せよ。
1. $d(\bold{s, t})$
2. $d(\bold{t, r})$
3. $d(\bold{s, r})$解答
- $|s_i-t_i|$により得られる数列は$0,1,1,1,0,0,0,1,1,1,0,0,0,\dots$であるから
$$d(\bold{s,t})=\left(\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}\right)\sum^\infty_{i=0}\left(\frac{1}{2^{6i}}\right)=\frac{8}{9}$$ 2. $|t_i-r_i|$により得られる数列は$1,1,1,\dots$であるから
$$d(\bold{t, r})=\sum^\infty_{i=0}\frac{1}{2^i} = 2$$ 3. $|s_i-r_i|$により得られる数列は$1,0,0,0,1,1,1,0,0,0,1,1,1,0,0,0,\dots$であるから
$$d(\bold{s,r})=\left(1+\frac{1}{16}+\frac{1}{32}\right)\sum^\infty_{i=0}\left(\frac{1}{2^{6i}}\right)=\frac{10}{9}$$
2.
$\omega$にたいして、$\Omega_2$内の周期$3$の周期点となる全数列を見つけ出せ。どの数列らが$\omega$の下での同じ軌道に存在するか?
解答
長さが$3$の$0$と$1$で構成された文字列が繰り返される数列がその周期点である。つまり
$$(000\ 000\cdots), (001\ 001\cdots), (010\ 010\cdots), \dots,(110\ 110\cdots),(111\ 111\cdots)$$ の全$8$個である。同じ軌道に存在する数列は
$$(001\ 001\cdots), (010\ 010\cdots), (100\ 100\cdots)$$ と
$$(011\ 011\cdots), (110\ 110\cdots), (101\ 101\cdots)$$ の二組である。
3.
周期$4$と周期$5$について演習問題2を再度解け。
解答
・周期$4$について
長さが$4$の$0$と$1$で構成された文字列が繰り返される数列がその周期点である。つまり$$(0000\ 0000\cdots), (0001\ 0001\cdots), (0010\ 0010\cdots), \dots,(1110\ 1110\cdots),(1111\ 1111\cdots)$$ の全$16$個である。同じ軌道に存在する数列は
$$\begin{aligned} (0010\ 0010\cdots), (0010\ 0010\cdots)&, (0100\ 0100\cdots), (1000\ 1000\cdots)\\ \\ (0011\ 0011\cdots), (0110\ 0110\cdots)&, (1100\ 1100\cdots), (1001\ 1001\cdots)\\ \\ (0111\ 0111\cdots), (1110\ 1110\cdots)&, (1101\ 1101\cdots), (1011\ 1011\cdots)\\ \\ (0101\ 0101\cdots)&, (1010\ 1010\cdots)\end{aligned}$$ の$4$組である。
・周期$5$について
長さが$5$の$0$と$1$で構成された文字列が繰り返される数列がその周期点である。つまり$$(00000\ 00000\cdots), (00001\ 00001\cdots), (00010\ 00010\cdots), \dots,(11110\ 11110\cdots),(11111\ 11111\cdots)$$ の全$32$個である。同じ軌道に存在する数列は
$$\begin{aligned} &(00001\ 00001\cdots),(00010\ 00010\cdots),(00100\ 00100\cdots),(01000\ 01000\cdots),(10000\ 10000\cdots)\\ \\ &(00011\ 00011\cdots),(00110\ 00110\cdots),(01100\ 01100\cdots),(11000\ 11000\cdots),(10001\ 10001\cdots) \\ \\ &(00111\ 00111\cdots),(01110\ 01110\cdots),(11100\ 11100\cdots),(11001\ 11001\cdots),(10011\ 10011\cdots)\\ \\ &(01111\ 01111\cdots),(11110\ 11110\cdots),(11101\ 11101\cdots),(11011\ 11011\cdots),(10111\ 10111\cdots)\\ \\ &(00101\ 00101\cdots),(01010\ 01010\cdots),(10100\ 10100\cdots),(01001\ 01001\cdots),(10010\ 10010\cdots)\\ \\ &(01101\ 01101\cdots),(11010\ 11010\cdots),(10101\ 10101\cdots),(01011\ 01011\cdots),(10110\ 10110\cdots)\\ \\ &(01011\ 01011\cdots),(10110\ 10110\cdots) \end{aligned}$$ の全$7$組である。
今日の数学はここまで。続きはまた明日。
【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.6 (24日目)
前書き
この記事はRobert L. Devaney著
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§1.6 SYMBOLIC DYNAMICS
記号力学系の基礎
この節でのゴールは前節で議論されたCantor 集合$\Lambda$上の2次関数の力学系の豊かな構造のモデルを与えることである。それをするために、$F$と完全に同型なモデル写像を設定する。最初のうちは、このモデルは人工的で直感的でないと見えるだろう。しかし、読み進めるにつれこのような記号力学系は$F$の力学系を完璧に記述しそれがもっとも単純で可能な方法であることが明らかになるだろう。
モデル写像の為の"空間"が必要である。この空間の点は$0$と$1$のみで構成される無限数列である。この数列が収束するかどうかは重要ではない。むしろ、ここでの重要な概念はそのような無限数列が空間内の一"点"を表していると想像することである。
定義 6.1
$\Omega_2={\bold{s}=(s_0s_1s_2\cdots)|s_j=0\text{ or }1}.$
$\Omega_2$は二つの記号$0$と$1$上の数列空間と呼ばれる。より一般的に、私たちは$0$と$n-1$に挟まれた整数の数列により構成される空間$\Omega_n$を考えることが出来る。$\Omega_2$の元は$(000\cdots)$や$(0101\cdots)$のような整数の文字列である。$\Omega_2$を距離空間にすることが出来る。二つの数列$\bold{s}=(s_0s_1s_2\cdots)$と$\bold{t}=(t_0t_1t_2\cdots)$に対して、それらの間の距離を
$$d(\bold{s}, \bold{t}) = \sum^\infty_{i=0}\frac{|s_i-t_i|}{2^i}$$ と定義する。$|s_i-t_i|$は$0$か$1$であるから、この無限級数はつぎの幾何級数で上から評価される。
$$\sum^\infty_{i=0}\frac{1}{2^i}=2$$ 従って、任意の二点の距離は収束する。 例えば、$\bold s = (000\cdots),\ \bold t=(111\dots)$ならば$d(\bold s, \bold t)=2.$ $\bold r=(1010\cdots)$ならば
$$d(\bold s,\bold t) = \sum^{\infty}_{i=0}\frac{1}{2^{2i}} = \frac{1}{1-\frac{1}{4}}=\frac{4}{3}.$$
命題 6.2
$d$は$\Omega_2$上の距離である。
証明
明らかに任意の$\bold s,\bold t\in\Omega_2$について$d(\bold s,\bold t)\geq0$である。また、任意の$i$に対し$s_i=t_i$のときに限り$d(\bold s, \bold t)=0$である。$|s_i-t_i|=|t_i-s_i|$であるから、$d(\bold s,\bold t)=d(\bold t,\bold s)$である。最後に$\bold{r, s, t}\in\Omega_2$であるならば、$|r_i-s_i|+|s_i-t_i|\geq|r_i-t_i|$より$d(\bold{r, s})+d(\bold{s,t})=d(\bold{r, t})$を得る。
命題 6.3
$\bold{s, t}\in\Omega_2$かつ$i=0,1,\dots,n$について$s_i=t_i$であるとする。そのとき$d(\bold{s, t})\leq 1/2^n$である。逆に言えば$d(\bold{s,t})\leq1/2^n$ならば$i\leq n$について$s_i=t_i$である。
証明
$i\leq n$について$s_i=t_i$であるならば
$$\begin{aligned}d(\bold{s,t})&=\sum^{n}_{i=0}\frac{|s_i-t_i|}{2^i} + \sum^\infty_{i=n+1}\frac{|s_i-t_i|}{2^i} \\ &\leq\sum^\infty_{i=n+1}\frac{1}{2^i} = \frac{1}{2^n}.\end{aligned}$$ 一方で、いくつかの$j\leq n$について$s_j\mathrlap{\,/}{=} t_j$ならば、
$$d(\bold{s,t})\geq\frac{1}{2^j}\geq\frac{1}{2^n}$$ となるはずである。その結果、$d(\bold{s, t})< 1/2^n$ならば$i<n$について$s_i=t_i$を得る(対偶)。
この結果の重要なことは二つの数列が互いに近いかどうかを瞬時に決定できることにある。直感的にこの結果は、二つの$\Omega_2$の2つの数列の近さは最初のいくつかの数項が一致しているかどうかで生み出されることを言っている。 今から、記号力学系のもっとも重要な要素であるシフト写像を定義する。
定義 6.4
シフト写像(shift map) $\omega:\Omega_2\to\Omega_2$を$\omega(s_0s_1s_2\cdots)=(s_1s_2s_3\cdots)$で定義する。 シフト写像は単純に数列の最初の項を"忘れ"、ほかの全ての項を左に一つ写す。明らかに、$\omega$は$s_0$は$0$か$1$のどちらかでしかないから、$\Omega_2$の2対1写像である。付け加えて言えば、上記で定義した距離では$\omega$は連続写像である。
命題 6.5
$\omega:\Omega_2\to\Omega_2$は連続である。
証明
$\epsilon-\delta$論法で示す。任意の$\epsilon>0$と$\bold s = s_0s_1s_2\cdots$をとる。$1/2^n <\epsilon$となるように$n$を選ぶ。$\delta=1/2^{n+1}$とする。もし$\bold t=t_0t_1t_2\cdots$が$d(\bold{s,t})<\delta$を満たすならば、命題6.3 より$i\leq n+1$について$s_i=t_i$を得る。それゆえ、$i\leq n$について、$\omega(\bold s)$と$\omega(\bold t)$の$i$番目の項は一致する。それゆえ$d(\omega(\bold s),\omega(\bold t))\leq1/2^n<\epsilon$である。
さて、$\omega$の完全に理解されることのできる単純な力学系を見ていこう。例えば、周期点は数列の完全に一致して繰り返している, i.e., $\bold s=(s_0\dots s_{n-1}\ s_0\dots s_{n-1}\ \dots)$のような形をしている数列である。それゆえ、$\Omega_2$には周期$n$の周期点が$2^n$個存在する。
最終的周期点も同様に豊富であり、見分けるのは簡単である。例えば、$(s_0\cdots s_n1111\cdots)$のような形の最終的に繰り返すようになる任意の数列は$\omega$の最終的固定点である。
$\omega$に関するもう一つの面白い事実として周期点の集合は$\Omega_2$上で稠密であることがある。$\text{Per}(\omega)$が稠密であることを証明するために、$\Omega_2$の任意の数列$\bold s=(s_0s_1s_2\cdots)$に収束するような周期点の数列を生成する必要がある。そこで、と定義する。命題6.3よりであるからとなる。
もちろん、$\Omega_2$には周期点または最終的周期点でないものも存在する。任意の繰り返さない数列は決して周期点とはならない。事実$\Omega_2$において、非周期数列の数は周期数列の数よりもかなり多い。付け加えて、$\Omega_2$には軌道が$\Omega_2$に稠密である非周期点が存在する。別の言い方をすれば、任意の与えられた$\Omega_2$の点にいくらでも近づくような数列が軌道内に存在するということである。それを見るために
$$\bold s^\ast=(\underbrace{0\ 1}_{1つ組}|\underbrace{00\ 01\ 10\ 11}_{2つ組}|\underbrace{000\ 001\ \cdots}_{3つ組}|\ \underbrace\cdots_{4つ組})$$
について考える。$\bold s^\ast$は長さが$\dots,n, n+1,\dots$の全ての$0$と$1$からなる数列を次々につなげて構成されている。明らかに、$\omega$のいくらかの反復を$\bold s^\ast$に適用することによって与えられた数列と任意の箇所で一致するような数列を生み出すことが出来る。稠密である軌道をもつ写像は位相推移的*1であると呼ばれる。
ここまでで出てきた$\omega$の性質をリストアップする。
命題 6.6
- $\text{Per}_n(\omega)$の濃度は$2^n$
- $\text{Per}(\omega)$は$\Omega_2$において稠密である。
- 軌道が$\Omega_2$において稠密であるようなものが存在する。
次の節では$\Omega_2$上のシフト写像が実際に$\Lambda$上の$f$と同じであることを示す。
今日の数学はここまで。続きはまた明日。
注釈
はてなキーワードの自動リンクにより数式が崩れるため今回は使用しませんでしたが、原著では$\Omega_2$, $\omega$はそれぞれΣ, σを使用していました。
*1:topologically transitive
【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.5 (23日目)
前書き
この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」
- 作者: Robert Devaney
- 出版社/メーカー: Westview Press
- 発売日: 1989/01/21
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§1.5 の演習問題
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」には演習問題の答えが付属していません。そのため、ここに載せた答案は間違っている可能性があります。間違い等に気づきましたらお知らせくださると助かります。
6.
この演習問題では$\lambda > 0$についての関数族$F(x)=x^3-\lambda x$を扱う。
1. $0<\lambda<1$のときの周期$n$の周期点を全て見つけ出し、分類せよ。 2. $|x|$が十分に大きいならば$|F^n(x)|\to\infty$となることを証明せよ。 3. $\lambda$が十分に大きいならば無限大に大きくなる傾向*1にない点の集合はCantor 集合になることを証明せよ。解答
- $x^3-\lambda x=x$を解けば、固定点は$x=0, \pm\sqrt{1+\lambda}$。周期$2$以上の周期点も$x=0, \pm\sqrt{1+\lambda}$しかない(論理的な導出は思いつきませんでした。)$F'(0)=-\lambda,\ F'(\pm\sqrt{1+\lambda}) = 3+2\lambda$より$0$は吸引的、$\pm\sqrt{1+\lambda}$は反発的である。
- $\displaystyle \lim_{x\to\infty}F(x)=\lim_{x\to\infty}x^2(x-\lambda)=\infty$, $\displaystyle \lim_{x\to-\infty}F(x)=\lim_{x\to-\infty}x^2(x-\lambda)=-\infty$より$n=1$のときは成立。$n=k - 1$のときに成立すると仮定すると、
$$F^k(x)=(F^{k - 1}(x))^2(F^{k - 1}(x)-\lambda )$$
より、前述と同様の議論により$n=k$でも成り立つ。よって、帰納法により任意の自然数$n$について成り立つ。 3. $\lambda\to\infty$のとき、$F(x)$が無限大に発散しない点は$F(x)=0$を満たす点であり、$x=0, \pm\sqrt{\lambda}$ $F^2(x)$が無限大に発散しない点は$F(x)=0, \pm\sqrt\lambda$を満たす$x$である。これを続けていけば$F^n(x)$が無限大に発散しない点は$F^{n-1}(x)=0, \pm\sqrt\lambda$を満たす$x$である。この$x$の集合がCantor 集合であることを示せばいいのですが、思いつきませんでした。$F^n(x)=0, \pm\sqrt\lambda$を満たす点と$x=0, \pm\sqrt\lambda$との距離がそれぞれ$F^{n-1}(x)=0\pm\sqrt{\lambda}$を満たす点との距離よりも近いことを示せれば良さそうです...
7.
例5.5で記述されたCantor の三進集合は閉集合、空ではない、完全かつ完全不連結であることを証明せよ。
解答
Cantor の三進集合を$\Gamma$で表すことにする。$\Gamma$は$I$から単位開区間$I$から開区間の和集合の補集合である。開区間の和集合は開集合であるので、その補集合である$\Gamma$は閉集合である。また、任意の正実数$x$について$0\mathrlap{\,/}{\in}(0, x)$より$0\in\Gamma$であるから$\Gamma$は空ではない。任意の$x\in\Gamma$をとる。簡単のために半径$3^{n}$の$x$の近傍$O$について考える。このとき、$x+3^{n-1}$もしくは$x-3^{n-1}$のどちらか一方は$O$に含まれる(図1参照)。よって$x$は集積点であり$\Gamma$は完全である。$x, y\in\Gamma, x\mathrlap{\,/}{=} y$であり$[x, y]\subset\Gamma$とする。このとき、$x$と$y$の位置関係は図2に示すような3つの種類がある。(a)の場合、次の段階で区間の中央が消去されるので矛盾。(b)の場合、元から区間が存在しないので矛盾。最後に(c)の場合も区間の半分が$\Gamma$に存在していないので矛盾。よって$\Gamma$は完全不連結。
8.
n段階目のCantorの三進集合の残っている区間の合計の長さが
$$1-\frac{1}{3}\left(\sum^{n-1}_{i=0}\left(\frac{2}{3}\right)^i\right)$$ であることを示せ。更に$n\to\infty$のとき、上記の長さが$0$になることを結論付けよ。
解答
$n$段階目で削除される区間の数は$2^n$個である。各区間の長さは$3^{-n-1}$である。よって、$n$段階目に削除される区間の全長は$\frac{1}{3}(\frac{2}{3})^n$である。$n$段階目までに削除される全区間の長さは$1$から$n$までの前述の長さの合計なので、それを$1$から引けば、示すべき式と一致する。
$n\to\infty$のとき、総和の項は初項$1/3$, 公比$2/3$の等比数列であるからその和は$(1/3)/(1-2/3)=1$。よって、長さは$0$。
9.
単位区間の残っている部分区間の各中央$1/5$を削除することにより得られるCantor 5進集合を構成せよ。この場合、残っている区間の長さはいくらか?
解答
$n$段階目で削除される区間の数は$2^n$個で削除される区間の長さは$2^n/5^{n+1}$であるから、削除される区間の総長は初項$1/5$、公比$4/5$の等比数列の和となる。その和は$1$であり、演習8と同様に残る長さは$0.$
10.
$\Gamma$をCantorの三進集合とする。線形写像$L(x)=3x$は$\Gamma\cap[0,1/3]$を$\Gamma$上に1対1で写す(全単射)。
解答
$n$段階目で削除される端点が$\Gamma$を構成するため、その点について議論する。$n$段階目の$\Gamma\cap[0,1/3]$の端点を列挙すると$0, 1/3^n, 2/3^n,\dots,3^{n-1}/3^n$である。これを$L$で写すと$0, 1/3^{n-1},2/3^{n-1},\dots,3^{n-1}/3^{n-1}=1$これは$n-1$段階目の$\Gamma$の端点を網羅している。$L$は線形であるから被りはなく、$n$が十分に大きければ$L$は$\Gamma\cap[0,1/3]$の端点を$\Gamma$の端点に余すことなく写す。
11.
演習問題10の一般化して、$n$段階目で残っている区間の1つに含まれている$\Gamma$の部分は$\Gamma$と同型であることを示せ。
解答
共通部分をとる区間の下端を$m/3^n$とする。ここで$m$は$3^n$以下の非負整数である*2。このとき$m/3^n - m/3^n = 0$であり下端の点は$\Gamma$に含まれているので、$m/3^n$を減じるような写像によって、区間の下端は$0$となる。あとは演習問題10と同様に$3^n$倍する線形写像によって各点は$\Gamma$によって1対1に写される。つまり$L(x)=3^n(x-\frac{m}{3^n})$は$\Gamma\cap[m/3^n, (m+1)/3^n]$を$\Gamma$に写す同型写像。
今日の数学はここまで。続きはまた明日。
【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.5 (22日目)
前書き
この記事はRobert L. Devaney著
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§1.5 の演習問題
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」には演習問題の答えが付属していません。そのため、ここに載せた答案は間違っている可能性があります。間違い等に気づきましたらお知らせくださると助かります。
1.
$F_2(x)=2x(1-x)$は$0<x<1$ならば$n\to\infty$のとき、$F_2^n(x)\to1/2$となることを証明せよ。
解答
まずは$0<x<1/2$のときについて考える。このとき$x<F_2(x)<1/2$であるから$n\to\infty$のとき$F_2(x)^n\to1/2$となる。$1/2<x<1$のとき、$0<F_2(x)<1/2$である。よって$F_2(x)<F_2^2(x)<1/2$であるから、同様に$n\to\infty$のとき$F_2(x)^n\to1/2$。$x=1/2$のとき、$F_2(x)=1/2$である。以上を総括すれば、$0<x<1$ならば、$n\to\infty$のとき$F_2^n(x)\to1/2$となる。
2.
単位区間上の$F_4^n(x)$のグラフを描け。ここで$F_4(x)=4x(1-x)$である。さらに、$F_4$は少なくとも$2^n$個の周期$n$の周期点を持つことを結論付けよ。
解答
$F_4$は区間$[0, \frac{1}{2}], [\frac{1}{2}, 1]$を$[0, 1]$に単調増加、単調減少しながら写す。よって、$[0, \frac{1}{2}], [\frac{1}{2}, 1]$上には$F^2_4$によってそれぞれ1つの起伏が出来るはずである。起伏の頂点は$1$なので、$[0, \frac{1}{2}]$に$F^2_4(c)=1$を満たすある$c$が存在する。よって$[0, c], [c, 1/2]$は$F^2_4$によって$[0,1]$に単調に写される。$[\frac{1}{2}, 1]$についても同様である。よって、$[0, \frac{1}{2}], [\frac{1}{2}, 1]$から生じる$4$つの区間上には$F^3_4$によって$4$つの起伏が出来る。
この議論を繰り返せば、$F^n_4$では$2^{n-1}$個の起伏ができ、それぞれの起伏と対角線との交点は$2$つあるので、$F^n_4$の固定点は$2^n$個である。
3.
次の式により定まるtent 写像の単位区間上のグラフを描け。
$$T_2(x)=\begin{cases} 2x &0\leq x\leq 1/2 \\ 2-2x &1/2\leq x\leq 1\end{cases}$$ 更に、$T^n_2$のグラフを用いて$T_2$は周期$n$の周期点をちょうど$2^n$個持つことを結論づけよ。
解答
上の図2から分かる通り,$T^n_2$は$2^{n-1}$個の起伏をもつので、$T^n_2$と対角線との交点は$2^n$個ある。
4.
$T(x)$のすべての周期点の集合は$[0, 1]$において稠密であることを証明せよ。
解答
$T^n_2$の固定点は$[0, 1]$を$2^n$等分した各区間にそれぞれ存在することを示す。
$T_2$は区間$[0, \frac{1}{2}], [\frac{1}{2}, 1]$をそれぞれ線形に$[0,1]$に写す。よって、$T^2_2$によって$[0, \frac{1}{2}], [\frac{1}{2}, 1]$上には起伏がそれぞれ1つできる。起伏は区分線形であり傾きは$1/2, -1/2, 1/2, -1/2$である。起伏の頂点はそれぞれ$1/4, 3/4$であるから、$4$つの周期点はそれぞれ$[0,\frac{1}{4}], [\frac{1}{4},\frac{2}{4}], [\frac{2}{4},\frac{3}{4}], [\frac{3}{4}, 1]$上にそれぞれ1つ存在する。以上の議論を帰納的に続ければ、$F^n_2$の固定点は$[0,1]$を等分した$2^n$個の区間、$[0,2^{-n}], [2^{-n}, 2\ \cdot\ 2^{-n}], \dots,[(2^n-1)2^{-n}, 1]$にそれぞれ$1$つずつ存在する。よって$n\to\infty$のとき、$[0, 1]$はいくらでも小さい区間に分割され、それぞれに固定点が$1$つずつ存在する。
5.
baker 写像
$$B(x)=\begin{cases}2x &0\leq x\leq 1/2\\ 2x-1 &1/2<x\leq 1 \end{cases}$$ のグラフを描け。周期$n$の周期点を$B$はいくつ持つ?
解答
$B^n$は$[0,1]$に$2^n$個の等しい線分を持つ。$0\leq B^n(x)\leq 1$であるから、各線分と対角線の交点は$1$つである。よって周期$n$の周期点は$2^n$個ある。
今日の数学はここまで。続きはまた明日。
【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.5 (21日目)
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この記事はRobert L. Devaney著
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$\Lambda$がCantor集合であることの証明 (続き)
昨日の記事において、Cantor 集合の定義5.4において、「真部分集合」と訳した箇所を「完全な部分集合」と改めました。それに付随して集合が「完全」であることの説明も書き加えましたので、ご確認ください。
$\Lambda$は閉区間の共通部分で出来ているから、$\Lambda$は閉集合である。今から、$\Lambda$が完全であることを証明する。最初に任意の$A_k$の端点は$\Lambda$に含まれることに注意せよ。確かに、そのような点は最終的に固定点$0$に写されるから反復において$I$にとどまり続ける。今、$p\in\Lambda$は孤立しているなら、十分に近い全ての点は必ず$F$の反復の下で$I$から離れる。そのような点はいくつかの$A_k$に含まれるはずである。このとき$p$に収束する$A_k$の端点の点列が存在するか、削除された$p$の近傍のすべての点はいくつかの$F^n$によって$I$の外に写される。前者の場合、$A_k$の端点は$0$に写されるため、$p$は$\Lambda$内にある。後者の場合、$F^n$は$p$を$0$に写し、$p$の近傍内のほかのすべての点は実軸の負に写すと仮定する。すると、$F^n$は$p$で極大値を持つので$(F^n)'(p)=0$である。連鎖律から、いくらかの$i<n$について$F'(F^i(p))=0$が成り立つ。それゆえ、$F^i(p)=1/2$である。しかしながら、$F^{i+1}(p)\mathrlap{\,/}{\in} I$であるから$F^n(p)\to-\infty$であり、$F^n(p)=0$であることに矛盾する。よって$p$はる累積点であり、証明を得る。
定理 5.6
$\mu>2+\sqrt{5}$ならば$\Lambda$はCantor 集合である。
注意
$\mu>4$についても定理は真であるが、証明はより繊細である。
私たちは$\mu>4$における$F_\mu$の大体の軌道の挙動について理解することが出来た。点は$F_\mu$の反復によって$=\infty$に向かう傾向にあるか、軌道全体が$\Lambda$内に存在するかのどちらかである。それゆえ、点が$\Lambda$に属さない限り、$F_\mu$における点の軌道は完全に理解できる。次節では$\Lambda$上のダイナミクスをを解析することによって$F_\mu$の解析を完了する。
$\mu>2+\sqrt{5}$のとき、$I_0\cup I_1$において$|F'_\mu(x)|>1$であった。これは$\Lambda$上では$|F'_\mu(x)|>1$であることを意味する。これは周期点だけでなく、集合全体で$|F'_\mu(x)|\mathrlap{\,/}{=}1$を要求することを除いて、§3の双曲性条件*1と同様の条件である。これは双曲型集合*2を定義する動機付けになる。
定義
集合$\Gamma\subset \mathbb{R}$が$f$についての反発的(それぞれ吸引的)集合であるとは、$\Gamma$は閉集合かつ有界かつ$f$の下で不変であり、ある$N>0$が存在して$|(f^n)'(x)|>1$(それぞれ$<1$)を全ての$n\geq N$および全ての$x\in\Gamma$について成り立つことを言う。
$\mu>2+\sqrt{5}$のときの二次関数についてのCantor 集合$\Lambda$は勿論、$N=1$のときの反発的双曲型集合である。
今日の数学はここまで。続きはまた明日。