ToTTi95Uのメモ帳

数学関係のメモ書き

【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.5 (23日目)

前書き

この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

を1日1時間ほど読んですぐ、内容を記事に起こしたものである。これ以上詳しいことは1日目の前書きを見るべし。

§1.5 の演習問題

 「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」には演習問題の答えが付属していません。そのため、ここに載せた答案は間違っている可能性があります。間違い等に気づきましたらお知らせくださると助かります。

6.

 この演習問題では$\lambda > 0$についての関数族$F(x)=x^3-\lambda x$を扱う。
1. $0<\lambda<1$のときの周期$n$の周期点を全て見つけ出し、分類せよ。 2. $|x|$が十分に大きいならば$|F^n(x)|\to\infty$となることを証明せよ。 3. $\lambda$が十分に大きいならば無限大に大きくなる傾向*1にない点の集合はCantor 集合になることを証明せよ。

解答

  1. $x^3-\lambda x=x$を解けば、固定点は$x=0, \pm\sqrt{1+\lambda}$。周期$2$以上の周期点も$x=0, \pm\sqrt{1+\lambda}$しかない(論理的な導出は思いつきませんでした。)$F'(0)=-\lambda,\ F'(\pm\sqrt{1+\lambda}) = 3+2\lambda$より$0$は吸引的、$\pm\sqrt{1+\lambda}$は反発的である。
  2. $\displaystyle \lim_{x\to\infty}F(x)=\lim_{x\to\infty}x^2(x-\lambda)=\infty$, $\displaystyle \lim_{x\to-\infty}F(x)=\lim_{x\to-\infty}x^2(x-\lambda)=-\infty$より$n=1$のときは成立。$n=k - 1$のときに成立すると仮定すると、

$$F^k(x)=(F^{k - 1}(x))^2(F^{k - 1}(x)-\lambda )$$
より、前述と同様の議論により$n=k$でも成り立つ。よって、帰納法により任意の自然数$n$について成り立つ。 3. $\lambda\to\infty$のとき、$F(x)$が無限大に発散しない点は$F(x)=0$を満たす点であり、$x=0, \pm\sqrt{\lambda}$ $F^2(x)$が無限大に発散しない点は$F(x)=0, \pm\sqrt\lambda$を満たす$x$である。これを続けていけば$F^n(x)$が無限大に発散しない点は$F^{n-1}(x)=0, \pm\sqrt\lambda$を満たす$x$である。この$x$の集合がCantor 集合であることを示せばいいのですが、思いつきませんでした。$F^n(x)=0, \pm\sqrt\lambda$を満たす点と$x=0, \pm\sqrt\lambda$との距離がそれぞれ$F^{n-1}(x)=0\pm\sqrt{\lambda}$を満たす点との距離よりも近いことを示せれば良さそうです...

 

7.

 例5.5で記述されたCantor の三進集合は閉集合、空ではない、完全かつ完全不連結であることを証明せよ。

解答

 Cantor の三進集合を$\Gamma$で表すことにする。$\Gamma$は$I$から単位開区間$I$から開区間の和集合の補集合である。開区間の和集合は開集合であるので、その補集合である$\Gamma$は閉集合である。また、任意の正実数$x$について$0\mathrlap{\,/}{\in}(0, x)$より$0\in\Gamma$であるから$\Gamma$は空ではない。任意の$x\in\Gamma$をとる。簡単のために半径$3^{n}$の$x$の近傍$O$について考える。このとき、$x+3^{n-1}$もしくは$x-3^{n-1}$のどちらか一方は$O$に含まれる(図1参照)。よって$x$は集積点であり$\Gamma$は完全である。$x, y\in\Gamma, x\mathrlap{\,/}{=} y$であり$[x, y]\subset\Gamma$とする。このとき、$x$と$y$の位置関係は図2に示すような3つの種類がある。(a)の場合、次の段階で区間の中央が消去されるので矛盾。(b)の場合、元から区間が存在しないので矛盾。最後に(c)の場合も区間の半分が$\Gamma$に存在していないので矛盾。よって$\Gamma$は完全不連結。

f:id:ToTTi95U:20190822000529p:plain
図1. Cantor 集合内の2点の関係

 

8.

 n段階目のCantorの三進集合の残っている区間の合計の長さが

$$1-\frac{1}{3}\left(\sum^{n-1}_{i=0}\left(\frac{2}{3}\right)^i\right)$$ であることを示せ。更に$n\to\infty$のとき、上記の長さが$0$になることを結論付けよ。

解答

 $n$段階目で削除される区間の数は$2^n$個である。各区間の長さは$3^{-n-1}$である。よって、$n$段階目に削除される区間の全長は$\frac{1}{3}(\frac{2}{3})^n$である。$n$段階目までに削除される全区間の長さは$1$から$n$までの前述の長さの合計なので、それを$1$から引けば、示すべき式と一致する。
 $n\to\infty$のとき、総和の項は初項$1/3$, 公比$2/3$の等比数列であるからその和は$(1/3)/(1-2/3)=1$。よって、長さは$0$。

 

9.

 単位区間の残っている部分区間の各中央$1/5$を削除することにより得られるCantor 5進集合を構成せよ。この場合、残っている区間の長さはいくらか?

解答

 

f:id:ToTTi95U:20190822000532p:plain
図2. Cantorの五進集合の概形
$n$段階目で削除される区間の数は$2^n$個で削除される区間の長さは$2^n/5^{n+1}$であるから、削除される区間の総長は初項$1/5$、公比$4/5$の等比数列の和となる。その和は$1$であり、演習8と同様に残る長さは$0.$

 

10.

 $\Gamma$をCantorの三進集合とする。線形写像$L(x)=3x$は$\Gamma\cap[0,1/3]$を$\Gamma$上に1対1で写す(全単射)。

解答

 $n$段階目で削除される端点が$\Gamma$を構成するため、その点について議論する。$n$段階目の$\Gamma\cap[0,1/3]$の端点を列挙すると$0, 1/3^n, 2/3^n,\dots,3^{n-1}/3^n$である。これを$L$で写すと$0, 1/3^{n-1},2/3^{n-1},\dots,3^{n-1}/3^{n-1}=1$これは$n-1$段階目の$\Gamma$の端点を網羅している。$L$は線形であるから被りはなく、$n$が十分に大きければ$L$は$\Gamma\cap[0,1/3]$の端点を$\Gamma$の端点に余すことなく写す。

 

11.

演習問題10の一般化して、$n$段階目で残っている区間の1つに含まれている$\Gamma$の部分は$\Gamma$と同型であることを示せ。

解答

 共通部分をとる区間の下端を$m/3^n$とする。ここで$m$は$3^n$以下の非負整数である*2。このとき$m/3^n - m/3^n = 0$であり下端の点は$\Gamma$に含まれているので、$m/3^n$を減じるような写像によって、区間の下端は$0$となる。あとは演習問題10と同様に$3^n$倍する線形写像によって各点は$\Gamma$によって1対1に写される。つまり$L(x)=3^n(x-\frac{m}{3^n})$は$\Gamma\cap[m/3^n, (m+1)/3^n]$を$\Gamma$に写す同型写像




今日の数学はここまで。続きはまた明日。

*1:原著では何が大きくなるか触れられていないがおそらく$n$が十分に大きいときの$F^n$についてだと思われる。

*2:ただし、$m/3^n$および、$(m+1)/3^n$は$\Gamma$に含まれるように選ぶ。