【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.5 (23日目)
前書き
この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」
- 作者: Robert Devaney
- 出版社/メーカー: Westview Press
- 発売日: 1989/01/21
- メディア: ハードカバー
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§1.5 の演習問題
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」には演習問題の答えが付属していません。そのため、ここに載せた答案は間違っている可能性があります。間違い等に気づきましたらお知らせくださると助かります。
6.
この演習問題では$\lambda > 0$についての関数族$F(x)=x^3-\lambda x$を扱う。
1. $0<\lambda<1$のときの周期$n$の周期点を全て見つけ出し、分類せよ。 2. $|x|$が十分に大きいならば$|F^n(x)|\to\infty$となることを証明せよ。 3. $\lambda$が十分に大きいならば無限大に大きくなる傾向*1にない点の集合はCantor 集合になることを証明せよ。解答
- $x^3-\lambda x=x$を解けば、固定点は$x=0, \pm\sqrt{1+\lambda}$。周期$2$以上の周期点も$x=0, \pm\sqrt{1+\lambda}$しかない(論理的な導出は思いつきませんでした。)$F'(0)=-\lambda,\ F'(\pm\sqrt{1+\lambda}) = 3+2\lambda$より$0$は吸引的、$\pm\sqrt{1+\lambda}$は反発的である。
- $\displaystyle \lim_{x\to\infty}F(x)=\lim_{x\to\infty}x^2(x-\lambda)=\infty$, $\displaystyle \lim_{x\to-\infty}F(x)=\lim_{x\to-\infty}x^2(x-\lambda)=-\infty$より$n=1$のときは成立。$n=k - 1$のときに成立すると仮定すると、
$$F^k(x)=(F^{k - 1}(x))^2(F^{k - 1}(x)-\lambda )$$
より、前述と同様の議論により$n=k$でも成り立つ。よって、帰納法により任意の自然数$n$について成り立つ。 3. $\lambda\to\infty$のとき、$F(x)$が無限大に発散しない点は$F(x)=0$を満たす点であり、$x=0, \pm\sqrt{\lambda}$ $F^2(x)$が無限大に発散しない点は$F(x)=0, \pm\sqrt\lambda$を満たす$x$である。これを続けていけば$F^n(x)$が無限大に発散しない点は$F^{n-1}(x)=0, \pm\sqrt\lambda$を満たす$x$である。この$x$の集合がCantor 集合であることを示せばいいのですが、思いつきませんでした。$F^n(x)=0, \pm\sqrt\lambda$を満たす点と$x=0, \pm\sqrt\lambda$との距離がそれぞれ$F^{n-1}(x)=0\pm\sqrt{\lambda}$を満たす点との距離よりも近いことを示せれば良さそうです...
7.
例5.5で記述されたCantor の三進集合は閉集合、空ではない、完全かつ完全不連結であることを証明せよ。
解答
Cantor の三進集合を$\Gamma$で表すことにする。$\Gamma$は$I$から単位開区間$I$から開区間の和集合の補集合である。開区間の和集合は開集合であるので、その補集合である$\Gamma$は閉集合である。また、任意の正実数$x$について$0\mathrlap{\,/}{\in}(0, x)$より$0\in\Gamma$であるから$\Gamma$は空ではない。任意の$x\in\Gamma$をとる。簡単のために半径$3^{n}$の$x$の近傍$O$について考える。このとき、$x+3^{n-1}$もしくは$x-3^{n-1}$のどちらか一方は$O$に含まれる(図1参照)。よって$x$は集積点であり$\Gamma$は完全である。$x, y\in\Gamma, x\mathrlap{\,/}{=} y$であり$[x, y]\subset\Gamma$とする。このとき、$x$と$y$の位置関係は図2に示すような3つの種類がある。(a)の場合、次の段階で区間の中央が消去されるので矛盾。(b)の場合、元から区間が存在しないので矛盾。最後に(c)の場合も区間の半分が$\Gamma$に存在していないので矛盾。よって$\Gamma$は完全不連結。
8.
n段階目のCantorの三進集合の残っている区間の合計の長さが
$$1-\frac{1}{3}\left(\sum^{n-1}_{i=0}\left(\frac{2}{3}\right)^i\right)$$ であることを示せ。更に$n\to\infty$のとき、上記の長さが$0$になることを結論付けよ。
解答
$n$段階目で削除される区間の数は$2^n$個である。各区間の長さは$3^{-n-1}$である。よって、$n$段階目に削除される区間の全長は$\frac{1}{3}(\frac{2}{3})^n$である。$n$段階目までに削除される全区間の長さは$1$から$n$までの前述の長さの合計なので、それを$1$から引けば、示すべき式と一致する。
$n\to\infty$のとき、総和の項は初項$1/3$, 公比$2/3$の等比数列であるからその和は$(1/3)/(1-2/3)=1$。よって、長さは$0$。
9.
単位区間の残っている部分区間の各中央$1/5$を削除することにより得られるCantor 5進集合を構成せよ。この場合、残っている区間の長さはいくらか?
解答
$n$段階目で削除される区間の数は$2^n$個で削除される区間の長さは$2^n/5^{n+1}$であるから、削除される区間の総長は初項$1/5$、公比$4/5$の等比数列の和となる。その和は$1$であり、演習8と同様に残る長さは$0.$
10.
$\Gamma$をCantorの三進集合とする。線形写像$L(x)=3x$は$\Gamma\cap[0,1/3]$を$\Gamma$上に1対1で写す(全単射)。
解答
$n$段階目で削除される端点が$\Gamma$を構成するため、その点について議論する。$n$段階目の$\Gamma\cap[0,1/3]$の端点を列挙すると$0, 1/3^n, 2/3^n,\dots,3^{n-1}/3^n$である。これを$L$で写すと$0, 1/3^{n-1},2/3^{n-1},\dots,3^{n-1}/3^{n-1}=1$これは$n-1$段階目の$\Gamma$の端点を網羅している。$L$は線形であるから被りはなく、$n$が十分に大きければ$L$は$\Gamma\cap[0,1/3]$の端点を$\Gamma$の端点に余すことなく写す。
11.
演習問題10の一般化して、$n$段階目で残っている区間の1つに含まれている$\Gamma$の部分は$\Gamma$と同型であることを示せ。
解答
共通部分をとる区間の下端を$m/3^n$とする。ここで$m$は$3^n$以下の非負整数である*2。このとき$m/3^n - m/3^n = 0$であり下端の点は$\Gamma$に含まれているので、$m/3^n$を減じるような写像によって、区間の下端は$0$となる。あとは演習問題10と同様に$3^n$倍する線形写像によって各点は$\Gamma$によって1対1に写される。つまり$L(x)=3^n(x-\frac{m}{3^n})$は$\Gamma\cap[m/3^n, (m+1)/3^n]$を$\Gamma$に写す同型写像。
今日の数学はここまで。続きはまた明日。