ToTTi95Uのメモ帳

数学関係のメモ書き

【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.6 (24日目)

前書き

この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

を1日1時間ほど読んですぐ、内容を記事に起こしたものである。これ以上詳しいことは1日目の前書きを見るべし。

§1.6 SYMBOLIC DYNAMICS

記号力学系の基礎

 この節でのゴールは前節で議論されたCantor 集合$\Lambda$上の2次関数の力学系の豊かな構造のモデルを与えることである。それをするために、$F$と完全に同型なモデル写像を設定する。最初のうちは、このモデルは人工的で直感的でないと見えるだろう。しかし、読み進めるにつれこのような記号力学系は$F$の力学系を完璧に記述しそれがもっとも単純で可能な方法であることが明らかになるだろう。
 モデル写像の為の"空間"が必要である。この空間の点は$0$と$1$のみで構成される無限数列である。この数列が収束するかどうかは重要ではない。むしろ、ここでの重要な概念はそのような無限数列が空間内の一"点"を表していると想像することである。

定義 6.1

$\Omega_2={\bold{s}=(s_0s_1s_2\cdots)|s_j=0\text{ or }1}.$

 $\Omega_2$は二つの記号$0$と$1$上の数列空間と呼ばれる。より一般的に、私たちは$0$と$n-1$に挟まれた整数の数列により構成される空間$\Omega_n$を考えることが出来る。$\Omega_2$の元は$(000\cdots)$や$(0101\cdots)$のような整数の文字列である。$\Omega_2$を距離空間にすることが出来る。二つの数列$\bold{s}=(s_0s_1s_2\cdots)$と$\bold{t}=(t_0t_1t_2\cdots)$に対して、それらの間の距離を

$$d(\bold{s}, \bold{t}) = \sum^\infty_{i=0}\frac{|s_i-t_i|}{2^i}$$ と定義する。$|s_i-t_i|$は$0$か$1$であるから、この無限級数はつぎの幾何級数で上から評価される。

$$\sum^\infty_{i=0}\frac{1}{2^i}=2$$ 従って、任意の二点の距離は収束する。  例えば、$\bold s = (000\cdots),\ \bold t=(111\dots)$ならば$d(\bold s, \bold t)=2.$ $\bold r=(1010\cdots)$ならば

$$d(\bold s,\bold t) = \sum^{\infty}_{i=0}\frac{1}{2^{2i}} = \frac{1}{1-\frac{1}{4}}=\frac{4}{3}.$$

命題 6.2

 $d$は$\Omega_2$上の距離である。

証明

 明らかに任意の$\bold s,\bold t\in\Omega_2$について$d(\bold s,\bold t)\geq0$である。また、任意の$i$に対し$s_i=t_i$のときに限り$d(\bold s, \bold t)=0$である。$|s_i-t_i|=|t_i-s_i|$であるから、$d(\bold s,\bold t)=d(\bold t,\bold s)$である。最後に$\bold{r, s, t}\in\Omega_2$であるならば、$|r_i-s_i|+|s_i-t_i|\geq|r_i-t_i|$より$d(\bold{r, s})+d(\bold{s,t})=d(\bold{r, t})$を得る。

命題 6.3

 $\bold{s, t}\in\Omega_2$かつ$i=0,1,\dots,n$について$s_i=t_i$であるとする。そのとき$d(\bold{s, t})\leq 1/2^n$である。逆に言えば$d(\bold{s,t})\leq1/2^n$ならば$i\leq n$について$s_i=t_i$である。

証明

 $i\leq n$について$s_i=t_i$であるならば

$$\begin{aligned}d(\bold{s,t})&=\sum^{n}_{i=0}\frac{|s_i-t_i|}{2^i} + \sum^\infty_{i=n+1}\frac{|s_i-t_i|}{2^i} \\ &\leq\sum^\infty_{i=n+1}\frac{1}{2^i} = \frac{1}{2^n}.\end{aligned}$$ 一方で、いくつかの$j\leq n$について$s_j\mathrlap{\,/}{=} t_j$ならば、

$$d(\bold{s,t})\geq\frac{1}{2^j}\geq\frac{1}{2^n}$$ となるはずである。その結果、$d(\bold{s, t})< 1/2^n$ならば$i<n$について$s_i=t_i$を得る(対偶)。

この結果の重要なことは二つの数列が互いに近いかどうかを瞬時に決定できることにある。直感的にこの結果は、二つの$\Omega_2$の2つの数列の近さは最初のいくつかの数項が一致しているかどうかで生み出されることを言っている。  今から、記号力学系のもっとも重要な要素であるシフト写像を定義する。

定義 6.4

 シフト写像(shift map) $\omega:\Omega_2\to\Omega_2$を$\omega(s_0s_1s_2\cdots)=(s_1s_2s_3\cdots)$で定義する。  シフト写像は単純に数列の最初の項を"忘れ"、ほかの全ての項を左に一つ写す。明らかに、$\omega$は$s_0$は$0$か$1$のどちらかでしかないから、$\Omega_2$の2対1写像である。付け加えて言えば、上記で定義した距離では$\omega$は連続写像である。

命題 6.5

 $\omega:\Omega_2\to\Omega_2$は連続である。

証明

 $\epsilon-\delta$論法で示す。任意の$\epsilon>0$と$\bold s = s_0s_1s_2\cdots$をとる。$1/2^n <\epsilon$となるように$n$を選ぶ。$\delta=1/2^{n+1}$とする。もし$\bold t=t_0t_1t_2\cdots$が$d(\bold{s,t})<\delta$を満たすならば、命題6.3 より$i\leq n+1$について$s_i=t_i$を得る。それゆえ、$i\leq n$について、$\omega(\bold s)$と$\omega(\bold t)$の$i$番目の項は一致する。それゆえ$d(\omega(\bold s),\omega(\bold t))\leq1/2^n<\epsilon$である。

さて、$\omega$の完全に理解されることのできる単純な力学系を見ていこう。例えば、周期点は数列の完全に一致して繰り返している, i.e., $\bold s=(s_0\dots s_{n-1}\ s_0\dots s_{n-1}\ \dots)$のような形をしている数列である。それゆえ、$\Omega_2$には周期$n$の周期点が$2^n$個存在する。
 最終的周期点も同様に豊富であり、見分けるのは簡単である。例えば、$(s_0\cdots s_n1111\cdots)$のような形の最終的に繰り返すようになる任意の数列は$\omega$の最終的固定点である。
 $\omega$に関するもう一つの面白い事実として周期点の集合は$\Omega_2$上で稠密であることがある。$\text{Per}(\omega)$が稠密であることを証明するために、$\Omega_2$の任意の数列$\bold s=(s_0s_1s_2\cdots)$に収束するような周期点の数列\tau_nを生成する必要がある。そこで、\tau_n=(s_0\cdots s_n\ s_0\cdots s_n\ \cdots)と定義する。命題6.3よりd(s,\tau_n)\leq 1/2^nであるから\tau_n\to\bf{s}となる。
 もちろん、$\Omega_2$には周期点または最終的周期点でないものも存在する。任意の繰り返さない数列は決して周期点とはならない。事実$\Omega_2$において、非周期数列の数は周期数列の数よりもかなり多い。付け加えて、$\Omega_2$には軌道が$\Omega_2$に稠密である非周期点が存在する。別の言い方をすれば、任意の与えられた$\Omega_2$の点にいくらでも近づくような数列が軌道内に存在するということである。それを見るために

$$\bold s^\ast=(\underbrace{0\ 1}_{1つ組}|\underbrace{00\ 01\ 10\ 11}_{2つ組}|\underbrace{000\ 001\ \cdots}_{3つ組}|\ \underbrace\cdots_{4つ組})$$ について考える。$\bold s^\ast$は長さが$\dots,n, n+1,\dots$の全ての$0$と$1$からなる数列を次々につなげて構成されている。明らかに、$\omega$のいくらかの反復を$\bold s^\ast$に適用することによって与えられた数列と任意の箇所で一致するような数列を生み出すことが出来る。稠密である軌道をもつ写像は位相推移的*1であると呼ばれる。
 ここまでで出てきた$\omega$の性質をリストアップする。

命題 6.6

  1. $\text{Per}_n(\omega)$の濃度は$2^n$
  2. $\text{Per}(\omega)$は$\Omega_2$において稠密である。
  3. 軌道が$\Omega_2$において稠密であるようなものが存在する。

 次の節では$\Omega_2$上のシフト写像が実際に$\Lambda$上の$f$と同じであることを示す。




今日の数学はここまで。続きはまた明日。

注釈

 はてなキーワード自動リンクにより数式が崩れるため今回は使用しませんでしたが、原著では$\Omega_2$, $\omega$はそれぞれΣ, σを使用していました。

*1:topologically transitive