ToTTi95Uのメモ帳

数学関係のメモ書き

2^(1/2^(1/2^(...)))はどんな値?

この記事は、「日曜数学 Advent Calendar 2019」 の21日目の記事です。
昨日はasangi_a4acさんの「106以上の実数」でした。 冬の寒さに匹敵するホラーで巨大な記事でした。

こんにちは、トッチです。普段は電気系の高専生に擬態しながら趣味で環論や力学系について勉強しています。今回は力学系の話題になります。

退屈な授業での発見

 夏休みの少し前、退屈な電磁気学の授業で関数電卓を使って遊んでいたときのことです。私は以下の数式を関数電卓に打ち込みました。

$$\sqrt[\text{Ans}]{2}$$ ここで$\text{Ans}$には前の計算結果がそのまま入ります。十分多く「=」ボタンを押したところ、以下の数列が出現しました。

$$\dots,1.559610469, 1.559610469, 1.559610469, 1.559610469,\dots$$ この数字は一体なんだろう?そんなわけでそれから私はこの数式と数列について色々調べました。

漸化式と2つの性質

 私が電卓に打ち込んだ数式をもう少しキチンと表すと以下のようになります。

$$ \tag{1} x_{n+1} = \sqrt[x_n]{a}\ (\text{ただし}a\text{は0より大きい実数})$$ そうです。漸化式です。
私はこの漸化式について関数電卓を使って調べ、2つの性質を実験的に見つけました。

  1. $1 \leq a \leq 10$程度の範囲では$x_n$は最終的にある1つの値に収束する。
  2. $a$がそこそこ大きいとき(20以上)、$x_n$は最終的に2つの値を交互にとるように収束する。

というわけで、この2つの性質について、収束する値や$a$の範囲を調べるのが今回の目標です。

固定点の値と吸引的になる条件

$f_a(x)=\sqrt[x]{a}$とします。ここでは、性質1.がどのような値に収束するかについて調べるために$p=f_a(p)$を満たすような$p$について考えていきます。この$p$を$f_a$の固定点と呼びます。ということで、早速$p=f_a(p)$を解いていくと、

$$\begin{aligned} p&=\sqrt[p]{a} \\ &= a^{1/p} \end{aligned}$$ 両辺を$p$乗して、

$$\begin{aligned} \tag{2} p^p=a \end{aligned}.$$ この解を$p_a$とします。解析に必要な情報はここで十分なので、これ以上詳しくは調べません。
「もっと知りたい!」という方は以下の動画を見ると幸せになると思います。


xx=2, answer in exact form!

パラメータ$a$と固定点$p_a$の関係は図1に示したグラフのようになります。

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図1. $a$と固定点$p_a$のグラフ(横軸$a$、縦軸$p_a$

式$(1)$から$a$の最低値は$e^{-\frac{1}{e}}$であることが分かります。また、$1 \leq a$のとき、固定点は1つあり、$e^{-\frac{1}{e}} \leq a < 1$のとき、固定点は2つあることが分かります。

さて、性質1で、$a$がどんなときに収束していくかを見るために$x_i$と$p_a$の差$\epsilon_i=x_i-p_a$について考えます*1。そのような$a$では、$\epsilon_i$が$0$に収束します。$f_a$を$p_a$中心で一次近似すると、

$$\begin{aligned}x_{i+1} = f_a(x_i) &= p_a - \frac{a^{1/p_a}}{p_a^2}\ln (a)(x_i-p_a) + O((x_i-p_a)^2) \\ \therefore \epsilon_{i+1} &= -\frac{a^{1/p_a}\ln a}{p_a^2}\epsilon_i + O(\epsilon_i^2)\end{aligned}$$ を得ます。$a^{1/p_a}=p_a^{p_a\cdot1/p_a}=p_a$であることに注意し、$\epsilon_i$に比べて$\epsilon_i^2$が十分に無視できるとすれば、

$$\left|\frac{\ln a}{p_a}\right| < 1$$ のとき、$\epsilon_i\to0$となります。よって、$|\ln a|<p_a$を満たす$a$は性質1を満たすことが分かりました。ここで横軸を$x$, 縦軸を$a$として$x = |\ln a|$, $x = p_a$のグラフを描くと、図2のようになります。

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図2. $x=|\ln a|$(赤)と$x=p_a$(青)(緑の点は2曲線の交点)

ここで$x = |\ln a|$, $x = p_a$をそれぞれ変形すると$a = e^{\pm x}$, $a = x^x$ですから、図2より、$|\ln a|<p_a$を満たす$a$は、

$$\begin{aligned} a_1 &= e^{-x} = x^x,\\a_2 &= e^{x} = x^x \end{aligned}$$ を用いて$a_1 < a < a_2$を満たすことが分かります。実際に$a_1, a_2$について計算すると、

$$a_1 = e^{-\frac{1}{e}}, a_2 = e^e$$ となります。ここで、図2をもう一度みると、$e^{-\frac{1}{e}} \leq a < 1$のとき、2つある固定点のうち、収束するのは必ず大きい方であることが分かります。
 今までは局所的な軌道が$p_a$に収束することについて言及してきました。ここに付け加えると、上記の範囲の$a$において、$x_{n+1} = f_a(x_n)$にクモの巣図法を適用すれば、任意の初期値$x_0 > 0$に対して漸化式$(1)$の固定点$p_a$に収束することが分かります。以上のことを纏めたのが次の命題です。

命題 1.
漸化式$x_{n+1} = \sqrt[x_n]{a}$は0より大きい任意の初期値$x_0$に対して$e^{-\frac{1}{e}} < a < e^e$のとき、$p_a^{p_a} = a$を満たす$p_a$のうち、もっとも大きいものに収束する。

余談ですが、$x^x=a$を満たす$x$を$a$の超平方根(super square root)といいます。つまり、上記の範囲の$a$においては漸化式$x_{n+1}=\sqrt[x_n]{a}$を電卓でポチポチと計算すると$a$の超平方根が計算出来るのです。

2周期点の値

 続いて$p_{n+2} = f_a(p_{n}), q_{n+2} = f_a(q_n)$を満たす点─2周期点─について調べていきます。今回知りたいのは$p \mathrlap{\,/}{=} q$の場合なので、これを仮定します(このような場合、$p, q$は素周期2であると言います)。そのような点では$p=f_a(q), q = f_a(p)$となります。よって、次の連立方程式

$$\begin{aligned} p = \sqrt[q]{a}, q = \sqrt[p]{a} \end{aligned}$$ の解$(p, q)$とその解が存在する$a$の条件について調べていけばよいことになります。連立方程式を整理すれば、

$$ \tag{3} p^q = q^a = a$$ を得ます。これを解くために$q = tp$と置きます。ここで$t\mathrlap{\,/}{=} 1$とします。これを式$(3)$に代入すれば、

$$(p^{t})^p = (tp)^p.$$ 両辺を$\frac{1}{p}$乗すれば、

$$p^t = tp.$$ さらに両辺を$p$で割り、$\frac{1}{t-1}$乗すれば、

$$p = t^{\frac{1}{t-1}}$$ を得ます。$q = tp$でしたから、$q = t^{\frac{t}{t-1}}$です。また式$(3)$より$a = (t^\frac{1}{t-1})^{t^{\frac{t}{t-1}}} = t^{\frac{t^\frac{t}{t-1}}{t-1}}$です(肩に肩が乗っかってんのかい)。$u=\frac{1}{t}$とすれば、$t^{\frac{1}{t-1}} = u^{\frac{u}{u-1}}$となりますから、曲線$y = p(t)$と$y=q(t)$は$0<t<\infty$で動かせば一致します。横軸を$a$、縦軸を$p$としてグラフを描くと図3のようになります。どうやら$p$が存在する$a$には下限が存在し、上限は存在しないようです。

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図3. パラメータ$a$と2周期点$p\ (\text{または}q)$の関係

補題1.

$$\lim_{t\to\infty} t^{\frac{t^{\frac{t}{t-1}}}{t-1}} = \infty, \lim_{t\to0^+} t^{\frac{t^{\frac{t}{t-1}}}{t-1}} = \infty$$

(証明)
Wolfram Alphaの結果より。(めんどい)

下限については、2変数関数の条件付き極値問題 (Lagrangeの未定乗数法)として捉えれば解けます。

補題2. 正の実数$p, q$に対して

$$a = p^q = q^p$$ は下限値$a = e^e$をもつ。

(証明) $a = p^q = q^p$ の各辺の対数を取り、$\log a = q\log p = p\log q$の最小値について見る。
$f(p, q) = \ln a = q\ln p$,$g(p, q) = q\ln p - p\ln q$とする。

$$\begin{aligned} f_p &= q/p, \\ f_q &= \ln p, \\ g_p &= q/p - \ln q, \\ g_q &= \ln p - p/q\end{aligned}$$

であるから、

$$\begin{aligned} f_p/g_p &=\frac{q/p}{q/p - \ln q}, \\ f_q/g_q &= \frac{\ln p}{\ln p -p/q}. \end{aligned}$$ ここで$f_p/g_p = f_q/g_q$と$g = 0$を同時に満たす$p, q$について調べる。

$$\begin{aligned} f_p/g_p &= f_q/g_q \\ (\ln p -p/q)q/p &= (q/p - \ln q)\ln p \\ \tag{4} 1 &= \ln p \cdot\ln q \end{aligned}$$

ここで、$g = 0$すなわち$\frac{\ln p}{p} = \frac{\ln q}{q}$と式$(4)$を組み合わせれば、

$$\begin{aligned} \frac{p}{\ln p} = e^{\frac{1}{\ln p}} \ln p \end{aligned}$$

これを頑張って解くと(増減表を用いた解き方しか思いつきませんでした。)、$\ln p = 1$、すなわち$p = e$を得る。同様に$q=e$となるので、$g(p, q)$は$x = y = e$で極値をとる。曲線$f(p, q) = 0$は端点を持たないので、極値のどれかが最小値、もしくは最大値となる。今、補題1.から$g(p, q)$は最大値を持たず、極値は$x = y = e$ただ一つなので、$g$は$g(e, e)$で最小値となる。(正確には$p\mathrlap{\,/}{=} q$なので$g(e, e)$は$g(p, q)$の下限。)

さらに、性質1のときと同様$f_a^2(x)$に蜘蛛の巣図法を適用すれば、$a > e^e$のとき、どんな初期値$x_0 > 0$からでも漸化式$x_{n+1}=f_a(x_n)$は2周期点$p, q$に交互に収束することが分かります。以上をまとめると次のようになります。

命題2.
任意の$a > e^e$に対して$x_{n+1} = \sqrt[x_n]{a}$は素周期2の周期点を持ち、任意の初期値$x_0$はその周期点に収束する。

ここまで、$a$に対する固定点と2周期点について調べてきました。まとめとして、次の図に$a$と固定点、2周期点の関係を示します。

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図3. 固定点(赤)、素周期2の周期点(青)のグラフ (横軸:$a$、縦軸:周期点、実線:収束する、破線:収束しない)

図を見ると、2周期点が固定点の上下にあることがよく分かります。また、$a\to\infty$のとき2周期点は$0$と$+\infty$になることが分かります。

感想および余談

 感想としましては、授業の暇つぶしからこんなに没頭できる問題と出会えてとても楽しかったです。次はどんな問題に出会えるかな?

 それから、今回調べた漸化式に似たもので、すでに調べられているものがあるので紹介しておきます。 www.ajimatics.com neqmath.blogspot.com

謝辞

今回の問題を一緒に取り組んでくれた友人達にここで感謝の意を述べさせていただきます。また、
補題2. について助言をくださった NKSΣさん(@nkswtr)、本当にありがとうございました。


夏休み中にやり残したこと

最後に、命題1つとそれに伴う系を示しておわりにしたいと思います。

命題3.
漸化式$x_{n+1} = f_a(x_n)$は素周期3以上の周期点を持たない。

(証明)
$f_a(x) = \sqrt[x]{a}$が$(0, \infty)$上で単調増加であることを利用して背理法でしめす。$y = f_a(x), z = f_a(y), x = f_a(z)$とし、$x < y$とする。$f_a$は単調増加であるから、

$$f_a(x) = y < z = f_a(y).$$ 同様に、

$$f_a(y) = z < x = f_a(z).$$ よって、$y < x$を得るがこれは仮定と矛盾する。$y < x$と仮定した場合も同様である。これにより素周期3の場合は示された。素周期が4以上の場合も同様である。

 

系.
正の実数$x, y, z$に対して、

$$x^y=y^z = z^x$$ が成り立つとき、$x = y = z$である。

勿論、上の系は一般の場合$x_{1}^{x_2} = x_{2}^{x_3} = \cdots = x_{n-1}^{x_n} = x_{n}^{x_1}$に対して拡張できます。

明日はunaoya さんの「保型形式について何か書きます」です。

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*1:田中久陽 ほか2名 訳(2015)『ストロガッツ 非線形ダイナミクスとカオス』.丸善出版株式会社,382頁.