【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.2 (5日目)
前書き
この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」
- 作者: Robert Devaney
- 出版社/メーカー: Westview Press
- 発売日: 1989/01/21
- メディア: ハードカバー
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微分積分の諸定理
もしかしたら、私たちが使う初等的な微分積分学の重要な特徴は連鎖律かもしれない。
命題2.5
$f, g$が関数であるならば、
$$(f\circ g)'(x) = f'(g(x))g'(x).$$ 特に$h(x)=f^n(x)$ならば、
$$h'(x) = f'(f^{n-1}(x))\cdot f'(f^{n-2}(x))\cdot f'(x).$$
定理2.6
$f:[a,b]\to \mathbb{R}$は$C^1$級とする。そのとき、
$$f(b)-f(a) = f'(c)(b-a)$$ を満たすような$c\in[a,b]$が存在する。
3つ目の重要な微分積分学の結果は中間値の定理である。
命題2.7
$f:[a,b]\to\mathbb{R}$は連続であるとする。$f(a)=u, f(b)=v$としたとき、$u$と$v$の間の任意の実数$z$に対して、$f(c)=z\ (a \leq c \leq b)$を満たすような$c$が存在する。
多変数関数の微分積分学において、もっとも抽象的で一見すると役に立たないように見える定理のうちの一つは陰関数定理である。多くの学生が初めての解析学の授業でこの定理に出会ったときには、この定理の力を正しく理解出来ない。今後私たちが対面する分岐理論の幾何的な結論がこの定理の有効性の誤解を取り払うことを願う。
定理2.8 (陰関数定理)
$G:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^1$は$C^1$級関数とする(言い換えれば、$G$の2つの偏導関数が存在してそれらは連続である。)更に次を仮定する。
$$\begin{aligned} &1.G(x_0, y_0) = 0 \\ &2.\frac{\partial G}{\partial y}(x_0, y_0) \mathrlap{\,/}{=} 0 \end{aligned}$$ このとき、$x_0$に関する開区間$I$と$y_0$に関する開区間$J$と$C^1$級関数$p:I\to J$が存在して、次を満たす。
$$\begin{aligned} &1.p(x_0) = y_0 \\ &2.\text{任意の}x\in I\text{に対して}G(x, p(x)) = 0 \end{aligned}$$
陰関数定理を証明する代わりに、いくつかの適用例を与える。
例2.9
$G(x,y)=x^2 + y^2 - 1$とする。$G$のレベルごとの集合は円であり、$G=0$は平面上で単位円を定義する。
$G(x_0,y_0)=0$と$y_0>0$、言い換えると$(x_0,y_0)$は半円の上または下半分に位置するとする。明らかに
$$\frac{\partial G}{\partial y}(x_0,y_0) = 2y_0 \mathrlap{\,/}{=} 0$$ であるから陰関数定理が適用される。$x_0$に十分近い任意の$x$が$G(x,p(x))$を満たすような関数$p(x)$とは何であろうか。この場合、陰関数表示の$p(x)$を構成することが出来る。明らかに$p(x)=\sqrt{1-x^2}$がそれであり、それは$x=\pm 1$でない限り$C^\infty$級である($y=0$のとき)。$|x| < 1$に対して$G(x,\sqrt{1-x^2})=0$であるから、陰関数定理は保証される。もしも$y_0 < 0$ならば$p(x)=-\sqrt{1-x^2}$とする必要がある。
多くの場合、ここでやったように$p(x)$を求めることは出来ないことを理解することは重要である。それにもかかわらず、陰関数定理は私たちがしばしば必要とする$p(x)$の存在性を保証する。
例2.10
$G(x,y)=x^5y^4-xy^5-yx^2+1$は$G(1,1)=0$と
$$\frac{\partial G}{\partial y}(1,1) = -2$$ を満たす。それゆえ、$x=1$を含むいくつかの区間が定義域であり、$G(x,p(x))=0$を満たすような関数$p(x)$が存在する。しかし、$y=p(x)$として$G(x,y)=0$を解くことは不可能である。
固定点に関する定理
$x$が固定点(または不動点)とは$f(x)=x$を満たすものである。これらの点は力学系理論の支配的な役割を持つ。次のように中間値の定理を適用することは固定点の存在性のための重要な基準与える。
命題2.11
$I=[a,b]$を区間、$f:I\to I$を連続とする。このとき$f$は少なくとも一つの固定点を持つ。
証明:
$g(x)=f(x)-x$とする。明らかに$g(x)$は$I$で連続である。$f(a)>a$かつ$f(b)>b$とする(そうでなければ$a$か$b$のどちらかが固定点である)。したがって$g(a)>0$かつ$g(b)<0$を得るから中間値の定理は$g(c)=0$を満たす$a$と$b$の間にある$c$の存在性を与える。よって$f(c)=c$。$\blacksquare$
この命題はよりBrouwerの不動点定理と呼ばれるより一般的な定理の特別な場合である。この定理は高次元の力学系における固定点の存在性のための同じような十分な条件を与える。実際に存在性を確認するためには少しの微分可能性があればよい。
次の結果は縮小写像の定理の特別な場合である。
命題2.12
$f:I\to J$を任意の$x\in I$に対して$|f'(x)|<1$であるとする。そのとき、唯一の$f$の固定点が$I$に存在する。さらに全ての$x, y\in I, x \mathrlap{\,/}{=} y$に対して
$$|f(x)-f(y)| < |x-y|$$ を満足する。
証明:
命題2.11から少なくとも一つの固定点の存在は保証されているので、$x, y$の両方が固定点であるとし、$x\mathrlap{\,/}{=} y$とする。平均値の定理からある$c$が$x$と$y$の間に存在し、
$$f'(c) = \frac{f(x)-f(y)}{x-y} = 1$$ を満たす。しかし、これは任意の$c\in I$に関する我々の仮定$|f'(c)|<1$に矛盾。それゆえ$x=y$である。
二つ目の主張を証明するために、私たちは再び平均値の定理を任意の$x,y\in I, x\mathrlap{\,/}{=} y$に用いる。
$$|f(y)-f(x)|=|f'(c)||y-x| < |y-x|$$ $\blacksquare$
今日の数学はここまで。続きはまた明日。