ToTTi95Uのメモ帳

数学関係のメモ書き

【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.2 (6日目)

前書き

この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

を1日1時間ほど読んですぐ、内容を記事に起こしたものである。これ以上詳しいことは1日目の前書きを見るべし。

位相空間論の概念

 少しの一般的な位相空間の概念と共にこの章を終えたいと思う。一般には、これらの概念は初等的な微分積分学の範囲を超えてしまう。しかし、それらの多くは数直線上においてもっとも単純で可能な場面で起こり、これはまさに我々がこれからなそうとしている場面である。

定義2.13

 $S\subset\mathbb{R}$とする。$x\in\mathbb{R}$を$x_n\in S$による数列の極限とする。$S$におけるすべての数列の極限が$S$の元であるとき、$S$は閉集合であるという。

明らかに閉区間閉集合である。有限個の閉集合の和集合も閉集合である。しかし、無限個の閉集合の和集合は次に示す例のように、閉集合にはならないことがある。

例2.14

 $I_n=[\frac{1}{n},1]$とする。このとき

$$\bigcup^{\infty}_{n=1} I_n = (0,1]$$ は$S$の極限$0$を含んでいないから、閉集合ではない。

しかしながら、閉集合の共通部分*1閉集合を生み出す(空集合は定義から閉集合である。)付け加えて、$I_n$が閉集合で、空でなく有界であり自然数$n$に対して$I_{n+1}\subset I$であるとき、$\bigcap^{\infty}_{n=1} I_{n}$は空でない閉集合である。ここで重要なことは勿論、空でないことである。

定義2.15

$S\subset\mathbb{R}$とする。任意の$x\in S$に対して開区間$(x-\epsilon,x+\epsilon)$と$S$の共通部分が$(x-\epsilon,x+\epsilon)$であるような$\epsilon>0$が存在するとき、$S$は開集合であるという。

 閉集合の補集合が開集合となることは明らかであり、逆もまたしかり*2閉集合に似つかわず、無限個の開集合の和集合は$\mathbb{R}$で開集合である。しかし、無限個の開集合の共通部分は開集合ではないことがある。たとえば、$J_n=(-\frac{1}{n},\frac{1}{n})$のとき、$\bigcap^{\infty}_{n=1}J_n={0}$は閉集合であり開集合ではない。  任意の集合$S$について、$S$の閉包を$\overline{S}$で表す。$\overline{S}$は$S$の全ての数列の極限を元として持つ。例えば、$S=(0,1)$ならば、その閉包$\overline{S}$は閉区間$[0,1]$である。勿論、$S$が閉集合であるなら$\overline{S}=S$である。

定義2.16

$S$の部分集合$U$が$S$で稠密であるとは、$\overline{U}=S$を満たすことである。

例えば、任意の開集合$S$は$\overline{S}$で稠密である。より興味の引かれる例は全ての有理数の集合$\mathbb{Q}$であり、$\mathbb{R}$において稠密である*3。同様に無理数の集合も$\mathbb{R}$で稠密である。ここで稠密な部分集合は必ず大きいと考えてはいないだろうか?著者はそのような考えに警告を鳴らす。稠密な開集合でさえ、区間の合計の長さという観点からでは小さくなりうるのだ。ここで単位区間$I=[0,1]$の例を記す。$I$の中で有理数はいくつかの順序によるリストによって可算な集合を形作る。そのような順序の一つが

$$0, 1, \frac{1}{2}, \frac{1}{3}, \frac{2}{3}, \frac{1}{4}, \frac{3}{4}, \frac{1}{5}, \frac{2}{5}, \frac{3}{5}, \frac{4}{5}, \frac{1}{6},\dots.$$ いま、$\epsilon>0$が十分小さいとする。上のリストの$n$番目の有理数に関する長さが$\epsilon^n$の開区間を考える。これらすべての区間の和集合は$I$で開集合であり、明らかに$I$の中の全ての有理数について稠密であるから、全体としてもそうである。しかし、この集合の全体の長さはかなり小さい。確かに、長さは次で与えられるからである。

$$\sum^{\infty}_{n=1}\epsilon^n=\frac{\epsilon}{1-\epsilon}$$  この例は私たちが採用するダイナミクスに対する位相的アプローチと測度論的アプローチの違いを明確に示している。位相空間論の観点からでは、稠密な部分集合は"大きい"と考えられる。それらの集合は測度論の観点、すなわち全長という視点から見たときには大きかったり小さかったりする。

今日の数学はここまで。続きはまた明日。

*1:有限に限らず無限個でも良い

*2:そこまで明らかでもない気がするがよく考えればわかる。

*3:有理数の数列の極限を実数と定義するからである。