【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.1 (3日目)
前書き
この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」
- 作者: Robert Devaney
- 出版社/メーカー: Westview Press
- 発売日: 1989/01/21
- メディア: ハードカバー
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人口の予測(続き)
昨日の単純なモデルは差分方程式としてもよく研究されている。$n$世代までの人口の数を$P_n$と表すことにしよう。ただし、$n$は自然数である。想像することのできるもっとも単純な成長のルールは次の世代の人口は今の世代の人口に単に比例することである。それは
$$P_{n+1} = k P_n$$
として表せる。ここで$k$は再び正の定数である。言い換えると
$$\begin{aligned} P_1 &= kP_0 \\ P_2 & = kP_1 = k^ 2 P_0 \\ P_3 & = kP_2 = k^ 3 P_0 \\ \vdots \\ P_n &= kP_{n-1}=k^ nP_0\end{aligned}$$
ということであり、最終的な人口は微分方程式のときと同様、簡単に決まる。もしも、$k>1$ならば、$P_n\to\infty$であり、$0 < k< 1$ならば$P_n\to0$である。 後で使うためにこの差分方程式を関数として作り直す。$x=P_0$とし、$f(x)=kx$とする。ここで、上記の言葉に直すと$f(x) = P_1, f(f(x))=k^ 2 x = P_2, f(f(f(x)))=P_3, \dots$であることに注意してほしい。それゆえ、人口の最終的な挙動は関数$f$の反復による漸近的な挙動に関係している。 上記のモデルはかなり理想的な状況を想定している。このモデルには予期せぬほどの成長か絶滅の二つの可能性しかない。しかし、生物学者はより複雑なパターンが自然界で起こっていることを経験から知っているから、それらをより反映するようにと、制約やパラメーターをモデルに組み込む。微積分学の下で、そのようなアプローチの一つに人口の限界値$L$を設定したものがある。もしも$P(t)$が$L$を超過したら人口は減少する傾向にあるべきだ(そこには過密、食料不足などの原因がある。)一方で$P(t)<L$ならば、より多くの種の為の余裕があるので$P(t)$は増えるだろう。このような挙動を導くもっとも単純な生物学的モデルは以下のものである。
$$\frac{dP}{dt} = kP(L-P)$$
この方程式は単純な因子$L-P$が前のモデルに添加されたもであることに注目するべきだ。 ここで前回、上限の無い成長を招いた条件、すなわち$k>0$を仮定する。ここで以下のことに注目する。
$$\begin{aligned} 1.&P=L \text{のとき, }\frac{dP}{dt} = 0 \\ 2.&P>L \text{のとき, }\frac{dP}{dt} < 0 \\ 3.&L>P \text{のとき, }\frac{dP}{dt} > 0 \end{aligned}$$
この簡単な計算はこのモデルが期待通りの挙動をすることを示している。つまり、人口は$P=L$, $P>L$もしくは$L>P$であるかによって、一定を保つか、減少するか、増加する。事実、上記の微分方程式は変数分離法と部分分数分解を用いることによってはっきりとした解を得ることが出来る。それが以下のものである。
$$P(t) = \frac{L P_0 e^ {Lkt}}{L-P_0 + P_0 e^ {Lkt}}$$
この数式は使うことによって我々はこの系の解を簡単に描くことが出来るだろう。
このモデルは指数関数的に成長するものと比べて現実に即しているにもかかわらず、私たちは人口の周期的、もしくは挙動の他の変動を見ることが出来ない。もしかしたら、これに対応する差分方程式も同じような挙動をすると素朴に期待するかもしれない。しかしながら、我々は大きな驚きへと向かっている。つまり、類似の差分方程式は想像できるもっとも複雑な力学系の一つを導く。今日まで、その力学系が完全に理解されたことは一度もない。 ここで私たちのモデルを単純化しよう。そこで限界値を$L=1$と固定する。もはや私たちは人口についてではなく人口の限界値までの割合について話そうとしている。$P_n$は$n$世代での人口と限界値までの割合を表すことにする。仮定を満たすような人口数は次の差分方程式により表現される。
$$P_{n+1} = kP_n (1-P_n)$$
ここで$k$は再び正の定数とする。前に$x=P_0$と$f(x)=kx(1-x)$と設定した。これは勿論上で言及された2次関数である。
$$\begin{aligned} P_1 &= f(x) \\ P_2 & = f(f(x)) \\ P_3 & = f(f(f(x))) \\ \vdots \end{aligned}$$
したがって、与えられた定数$k$に対して人口の最終的な運命を決定するためには、関数$kx(1-x)$の漸近的な挙動を知る必要がある。このロジスティック写像として知られている関数の力学系は多くの同時期の数学者の研究テーマになっていた。続く章でこの系が引き起こす病的さ、複雑さを説明し始めるだろう。
ニュートン法
もう一つの実用的な力学系の例は多項式の根を見つけるニュートン法である。
$$Q(x) = a_n x^ n + a_{n-1} x^ {n-1} + \dots + a_0$$
を多項式とする。一般に$Q$の次数が高いほど$Q$を因数分解することは不可能になる。にもかかわらず、実用的に$Q$の根を見つけることはしばしば重要になる。ニュートン法はその根を見つけるための古典的で再帰的な方法の1つである。$x_0$を実数とする。次の再帰的処理を考えてほしい。
$$\begin{aligned} x_1 &= x_0 - \frac{Q(x_0)}{Q'(x_0)} \\ x_2 &= x_1 - \frac{Q(x_1)}{Q'(x_1)} \\ x_3 &= x_2 - \frac{Q(x_2)}{Q'(x_2)} \\ \vdots \\ x_{n+1} &= x_n - \frac{Q(x_n)}{Q'(x_n)} \end{aligned}$$
多くの初期値$x_0$の選択肢に対して、数列$x_0, x_1, x_2, \dots$の値は$Q$の根の1つに収束することが微積分学によって知られている。
今日の数学はここまで。明日はこの続きから。