【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.4 (16日目)
前書き
この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」
- 作者: Robert Devaney
- 出版社/メーカー: Westview Press
- 発売日: 1989/01/21
- メディア: ハードカバー
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§1.4 HYPERBOLICITY
双極型
双曲型周期点と呼ばれる周期点を持つ写像は多くの典型的な力学系を引き起こし、さらに解析するためのもっとも単純な周期挙動を提供する。
定義4.1
$p$を周期$n$の周期点とする。点$p$が双曲型*1であるとは$|(f^n)'(p)|\mathrlap{\,/}{=} 1$であることである。数$(f^n)'(p)$は周期点の倍率*2と呼ばれる。
例4.2
微分同相$f(x)=\frac{1}{2}(x^3+x)$を考える。このとき$f$は3つの固定点, $x=0, 1, -1$を持つ。$f'(0)=1/2, f'(\pm 1)=2$であることに注意すれば、それぞれの固定点は双曲型であることが分かる。
例4.3
$f(x)=-\frac{1}{2}(x^3+x)$とする。$0$は$f'(0)=-1/2$であるから双曲型固定点である。いま、点$\pm 1$は周期$2$の周期軌道上にある。連鎖律から$(f^2)'(\pm 1)=f'(1)\ \cdot\ f'(-1)=4$と計算できる。それゆえ、この周期点は双曲型である。しかし、区間$(-1, 1)$の点は$0$に向けて渦巻いていくか、$\pm 1$から遠ざかっていくことに注意せよ。
上の例はどちらも$|f'(0)|\leq 1$かつ$0$に近い点は$0$に漸近している。この状況はしばしば引き起こされる。
命題4.4
$p$は$|f'(p)|\leq 1$である双曲型固定点とする。このとき、$p$を含む開区間$U$が存在し、$x\in U$に対して
$$\lim_{n\to\infty}f^n(x) = p$$
証明
$f$は$C^1$級であるから、全ての$x\in[p-\epsilon, p+\epsilon]$に対して$|f'(x)| < A < 1$を満たすような$\epsilon>0$が存在する。平均値の定理より
$$|f(x)-p| = |f(x)-f(p)| \leq A|x-p|<|x-p|\leq \epsilon$$ それゆえ$f(x)$は$[p-\epsilon, p+\epsilon]$に含まれ、実際$x$よりも$p$に近づく。 同様の議論によって
$$|f^n(x)-p|\leq A^n|x-p|$$ であるから、$n\to\infty$のとき$f^n(x)\to p$となる。
注意
定義4.5
$p$を$|(f^n)'(p)|<1$である周期$n$の双曲型周期点とする。この点$p$は吸引的周期点*3と呼ばれる。
それゆえ、周期$n$の吸引的周期点は$f^n$によって自分自身に写される近傍を持つ。そのような近傍は局所安定集合とよばれ$W^s_{loc}$と表される。吸引的不動点は$f'(p)=0, 0 < f'(p)<1, -1 < f'(p) < 0$の3つの条件によって種類分けできるだろう。
命題4.6
$p$を$|f'(p)|>1$を満たす双曲型固定点とする。このとき$p$を含むある開区間$U$が存在し、$x\in U, x\mathrlap{\,/}{=} p$に対してある$k>0$が存在して$f^k(x)\not \in U.$
証明
$f$は$C^1$級であるから、$x\in[p-\epsilon, p+\epsilon]$に対して$|f'(x)| > A > 1$を満たすような$\epsilon > 0$が存在する。平均値の定理より
$$|f(x)-p| = |f(x) - f(p)| \geq A|x-p| > |x-p|$$
よって$f(x)$は$x$よりも$p$から遠ざかる。 同様の議論を通して
$$|f^n(x)-p| > A^n|x-p|$$ $A > 1$より$n\to\infty$のとき$A^n\to\infty$であり、$|f^n(x)-p|\to\infty$。いま、$\epsilon$は有限であるから、ある$k>0$が存在して$f^k(x)\not\in [p-\epsilon, p+\epsilon].$
定義4.7
$|f'(p)|>1$である固定点$p$は反発的固定点と呼ばれる。命題4.6で記述された近傍を局所不安定集合と呼び$W^u_{loc}$で表す。
その結果、双曲型周期点は周期点の微分係数に影響を受ける局所的な挙動を持つ。これは次の例で示すように、微分不可能であるか非双曲型である場合には正しくない。
例4.8
図4.1のそれぞれの写像は$f(0)=0$と$f'(0)=1$を満たすが、$0$付近の非常に異なる相図を持つ。(a)では、写像$f(x)=x+x^3$は弱吸引的固定点を$0$で持つ。(b)では、写像$f(x)=x-x^3$は弱反発的な固定点を$0$に持つ。(c)では、写像$f(x)=x+x^2$は$0$の右側では弱反発的であるが、左側では弱吸引的である。
ほとんどの写像は後で見るように双曲型の周期点しか持たない。しかしながら、非双曲型周期点はしばしば写像の族の中で引き起こされる。これが生じたとき、周期点はしばしば分岐する。後でより広範囲な分岐点の理論を扱う予定だが、今はいくつかの例を与えることにする。
例4.9
2次関数$Q_c(x)=x^2+c$の族について考える。ここで$c$はパラメータである。$Q_c$のグラフは対角線との交点に関して場合分けが出来る。すなわち$c>1/4, c = 1/4, c < 1/4$の3つである。$c > 1/4$のとき$Q_c$は固定点を持たないことに注意せよ。$c=1/4$のとき$x=1/2$において特徴的な非双曲型固定点を$Q_c$は持つ。そして、$c < 1/4$のとき$Q_c$は1つは吸引的でもう一つは反発的な双曲型固定点の組を持つ。したがって、$Q_c$の相図は$c$が$1/4$まで減少するとき変化する。この変化は分岐の一例である。
例4.10
$F_\mu(x) = \mu x(1-x),\ \mu > 1$とする。$F\mu$は2つの固定点$0$と$p_\mu = (\mu-1)/\mu$をもつ。$F\mu'(0) = \mu$と$F_\mu(p_\mu)=2-\mu$であることに注意せよ。それゆえ、$\mu>1$について$0$は反発的であり、$1<\mu<3$について$p_\mu$は吸引的である。$\mu=3$のとき$F_\mu(p_\mu) = -1$である。$\mu$が$3$まで増加するとき、$F^2_\mu$は新しい2つの固定点をもつことに注意せよ。それらは周期$2$の新しい周期点である。これはもう一つの分岐が生じたことを意味する。つまり、$Per_2(F_\mu)$が変化する。
この2次写像の族は一般の理論において重要な事象を確かに明示する。
今日の数学はここまで。続きはまた明日。