ToTTi95Uのメモ帳

数学関係のメモ書き

【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.5 (20日目)

前書き

この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

を1日1時間ほど読んですぐ、内容を記事に起こしたものである。これ以上詳しいことは1日目の前書きを見るべし。

$\mu>4$のときの二次関数族

前節の例4.10において$\mu$の値が$3$を超えると$F_\mu$のダイナミクスは周期$2$の新たな周期点が生まれるなどして、より複雑になる。
 今は$\mu>4$の場合に集中しよう。この説の残りのにおいて$F_\mu$の添え字$\mu$は削って$F$とだけ表記することにする。昨日と同じく、すべての$F$の面白いダイナミクスは単位区間$I:=[0,1]$の中で起こる。$\mu>4$であれば$F$の最大値$\mu/4$は$1$よりも大きくなることに注意せよ。それゆえ、$F$によって$I$を跳び越してしまう点が存在する。そのような点の集合を$A_0$と表すことにする。明らかに$A_0$は$1/2$を中心にした開区間で、$x\in A_0$ならば$F(x)>1$であり、それゆえ$F^2(x)<0$で$F^n(x)\to-\infty$という性質を持つ。
 $A_1 := {x\in I|F(x)\in A_0}$とする。$x\in A_1$ならば、$F^2(x)>1, F^3(x)<0$であるから、$A_0$と同様に$F^n(x)\to-\infty$となる。帰納的に$A_n:={x\in I|F^n(x)\in A_0}$とする。$A_n$の全ての点は$n+1$回目の反復で$I$からはみ出す。よって、$x$が$A_n$に属しているならば、$x$の軌道は最終的に$-\infty$に向かう傾向にある。私たちは$A_n$に属するすべての点の最終的な運命をしったので、解析を残しているのは$I$から決してはみ出さない点の軌道だけてあり、言い換えるとそのような点の集合は

$$I-\left(\bigcup^\infty_{n=0} A_n\right)$$ である。この集合を$\Lambda$で表す。最初の疑問は「どの点がこの集合に含まれているか?」である。$\Lambda$を理解するために、より注意深く再帰的な構造をこれから記述していく。
 $A_0$は$1/2$を中心にした開区間であるから、$I-A_0$は二つの閉区間、左の$I_0$と右の$I_1$からなる。
 $F$の制限$F|_{I_0}:I_0\to I$と$F|_{I_1}:I_1\to I$は全単射であることに注意せよ。このとき$F$は$I_0$では増加、$I_1$では減少する。$F(I_0)=F(I_1)=I$であるから、$F$によって$A_0$に写される開区間の組(片方は$I_0$に含まれ、もう片方は$I_1$に含まれる)が存在する。それゆえ、この組が$A_1$である。
 さらに$I-(A_0\cup A_1)$について考えていく。この集合は四つの閉区間で構成され、それぞれの元を$I_0$または$I_1$の元に一対一で対応させる。結果として、$F^2$はそれぞれを$I$上*1に写す。従って、$F^2$によって$A_0$上に写される部分区間を$I-(A_0\cup A_1)$に含まれる四つのそれぞれの区間が有することが分かる。よって、それらの区間の点は$F$の三回目の反復によって$I$からはみ出す。
 これを続けていくと、2つの事実に行きつく。まず一つ目に、$A_n$は$2^n$個のバラバラな開区間から構成されている。それゆえ、$I-(A_0\cup \dots\cup A_n)$は$2^{n+1}$個の閉集合で構成される。二つ目に、$F^{n+1}$はそれらの閉集合を$I$上に単調に写す。実際、$F^{n+1}$のグラフはそれらの区間で増加と減少を交互に繰り返す。したがって、$F^{n+1}$のグラフにはちょうど$2^n$個の山が$I$上にある形となり、それゆえ$F^n$は少なくとも$2^n$個の固定点を持つ、もしくは同値であるが、$Per_n(F)$は$I$の$2^n$個の点で構成される。明らかに、$\Lambda$の構造は前日の状況$\mu<3$のときと比べて$\mu>4$のときの方がかなり複雑になっている。
 $\Lambda$の構造はCantorの三進集合*2を想起させる。つまり、$\Lambda$は一連の閉区間の「中央」から開区間を連続して削除することによって得られている。

定義 5.4

 集合$\Lambda$がCantor 集合であるとは、それが平集合であり、完全に非連結であって、かつ$I$の完全な部分集合*3であることである。集合が非連結であるとは、いかなる区間をも含まないことを指す。集合が完全*4であるとは、それに含まれるすべての点が累積点*5であるか、集合の他の点による極限であることをいう。

 

例 5.5 (Cantorの三進集合)

 これはCantor 集合の古典的な例である。始めに$I$から、"中央三分の一" i.e. 区間$(\frac{1}{3},\frac{2}{3})$を消す。次に残ったものから2つの中央三分の一 i.e. 区間$(\frac{1}{9},\frac{2}{9})$と$(\frac{7}{9}, \frac{8}{9})$を消す。この流れのまま中央三分の一を消し続ける。ここで$n$回目のこの手順では$2^n$個の開集合が削除されることに気を付けよ。従って、この方法は$\Lambda$の構造と完全に相似である。演習問題7.ではCantorの三進集合が確かにCantor 集合の定義を満たすことを示す。

 $\Lambda$がCantor 集合であることを保証するために、追加の前提を$\mu$に課す必要がある。$\mu$は全ての$x\in I_0\cup I_1$に対して$|F'(x)|>1$を満たすとする。これは$I_0$と$I_1$の$A_0$に接する端点で最も$|F'(x)|$が小さいことを利用して、$|F'(x)|=1$の方程式を解けば、$\mu>2+\sqrt{5}$を満たすことと同値であることが簡単にわかる。それゆえ、そのような値の$\mu$について、ある$\lambda>1$が存在して全ての$x\in \Lambda$に対して$|F'(x)|>\lambda$を満たす。連鎖律から同様にして$|(F^n)'(x)|>\lambda^n$が導かれる。$\Lambda$がいかなる区間をも含まないことを主張したい。そのために$x, y\in\Lambda, x\mathrlap{\,/}{=} y$であって、$[x,y]\subset\Lambda$とする。すると、全ての$\alpha\in[x, y]$に対し$|(F^n)'(\alpha)|>\lambda^n$である。$n$を選択して$\lambda^n|y-x|>1$とする。平均値の定理から、$|F^n(y)-F^n(x)|\geq \lambda^n|y-x|>1$が導かれ、これは少なくとも$F^n(x)$または$F^n(y)$が$I$の外に存在することを示している。しかし、これは矛盾である。よって、$\Lambda$は完全に非連結である。


今日の数学はここまで。続きはまた明日。

*1:原著ではonto.全射であることを意味する

*2:Cantor Middle Thirds set.日本語ではCantor(カントール)の集合とも呼ばれる。今回は同じ語を別の場所で使用するため三進とついたものを採用した。

*3:perfect subset

*4:2019年8月15日追記。真部分集合も完全な部分集合と書き換えました。

*5:accumulation point. $x$が累積点であるとき、$x$を含む任意の開区間は$x$以外の点を含みます。

【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.5 (19日目)

前書き

この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

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§1.5 AN EXAMPLE: THE QUADRATIC FAMILY

二次関数族の性質

 この節では二次関数の族$F_\mu(x)=\mu x(1-x)$の議論を続けていく。実際、力学系で引き起こされるほとんどの重要な現象の多くを示すため、この章の残りにおいてこの例にしばしば戻ってくるだろう。

命題 5.1

  1. $F_\mu(0)=F_\mu(1)=0$かつ$F_\mu(p_\mu)=p_\mu$、ここで$p_\mu=\frac{\mu-1}{\mu}$
  2. $\mu>1$ならば$0<p_\mu<1$

    証明

    自明。

これから、$\mu>1$の場合を中心に考える。次の命題は$[0, 1]$に属していないすべての点は$-\infty$に向かう傾向にあることを示す。

命題 5.2

 $\mu>1$とする。$x<0$ならば$n\to-\infty$のとき$F_\mu^n(x)\to-\infty$となる。同様に、$x>1$ならば$n\to\infty$のとき$F_\mu^n(x)\to-\infty$となる。

証明

 $x<0$ならば、$\mu x(1-x)<x$であるから$F_\mu(x)<x$。それゆえ$F_\mu^n(x)$は減少点列である。この点列は$p$に収束できない*1、その場合$F_\mu^{n+1}(x)\to F_\mu(p)$である。一方、$F_\mu(p)\to p$である。それゆえ$F^n_\mu(p)\to-\infty$。$x>1$ならば$F_\mu(x)<0$より同じように$F^n(x)\to-\infty$である。

この命題の結果として、全ての興味深い二次関数族のすべての系は単位区間$[0,1]$に引き起こされることが分かる。低い$\mu$の値に対して、$F_\mu$のダイナミクスは複雑すぎることはない。

命題 5.2

$1<\mu<3$とする。 1. $F_\mu$は$p_\mu=(\mu-1)/\mu$において吸引的な固定点を持ち、$0$において反発的な固定点を持つ。 2. $0<x<1$ならば、

$$\lim_{n\to\infty} F^n_\mu(x)=p_\mu$$

証明

  1. 前節の最後、例4.10において証明済み。
  2. まず最初に$1<\mu<2$の場合について扱う。$x$が区間$(0,1/2]$に属しているとする。グラフによる解析により$x\mathrlap{\,/}{=} p_\mu$であるならば、直ちに次のことが示される。

$$|F_\mu(x)-p_\mu|<|x-p_\mu|$$ 図5.1を見よ。結果として$n\to\infty$のとき$F^n_\mu(x)\to p_\mu$であることが分かる。一方で、$x$が区間$(1/2,1)$に存在する場合、$F_\mu(x)$は$(0, 1/2)$に属するから、$n\to\infty$のとき

$$F^n_\mu(x)=F^{n-1}_\mu(F_\mu(x))\to p_\mu.$$

f:id:ToTTi95U:20190813234026p:plain
図5.1 $1<\mu<2$のときの$y=F_\mu(x)$の概形
 $2<\mu<3$の場合はより難しい。$1/2<p_\mu<1$であることに注意せよ。$\hat p_\mu\in(0,1/2)$を$F_\mu(\hat p_\mu)=p_\mu$を満たすものとする。区間$[\hat p_\mu, p_\mu]$は$F_\mu$によって$[p_\mu, \mu/4]$に写され、この区間は$F_\mu$によってさらに$[\frac{\mu^2}{4}(1-\mu/4), p]$に写される。図5.2に示すように$\frac{\mu^2}{4}(1-\mu/4)<1/2$であるから、結論として区間$[\hat p_\mu, p_\mu]$は$F^2_\mu$によって$[1/2, p]$に写される。したがって、任意の点$x\in[\hat p_\mu, p_\mu]$に対して$n\to\infty$のとき、$F^n_\mu(x)\to p_\mu$となる。次に$x<\hat p_\mu$とする。再び幾何的な解析はある$k>0$が存在し、すなわち$F^k_\mu\in[\hat p_\mu, p_\mu]$を満たすことを示す。それゆえ、この場合でも同様に$n\to\infty$のとき$F^{n+k}_\mu(x)\to p_\mu$となる。最後に$F_\mu$は区間$(p_\mu,1)$を$(0,p_\mu)$に写す(全射)ので、前のものと同様に$F^{n+k+1}_\mu(x)\to p_\mu$を満たす。$(0,1)=(0,\hat p_\mu)\cup[\hat p_\mu,p_\mu]\cup(p_\mu,1)$であるから、これで終わりである。中間の場合、$\mu=2$が残っている。これについては演習問題1.を見よ。
f:id:ToTTi95U:20190813234029p:plain
図5.2 $2<x<3$における$y=\frac{x^2}{4}(1-x/4)$

それゆえ*2、$1<\mu<3$のとき$F_\mu$はたった二つの固定点しか持たず、ほかの$I$内のすべての点は$p_\mu$に漸近する。したがって、$F_\mu$のダイナミクスはこの範囲の$\mu$については完全に理解された。

 

今日の数学はここまで。続きはまた明日。

*1:$|\mu x(1-x)-x|$は$x$が減少するほど増加する。

*2:これ以降の文章は2019年8月15日に追記された

【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.4 (18日目)

昨日は疲れたため休みました。すいません。

前書き

この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」

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§1.4の演習問題

 「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」には演習問題の答えが付属していません。そのため、ここに載せた答案は間違っている可能性があります。間違い等に気づきましたらお知らせくださると助かります。

2.

次の写像の族に生じる、示されたパラメータ値の分岐点について考えよ*1

$$\begin{aligned} &a. S_\lambda(x)=\lambda\sin x,\ \lambda=1 \\ &b. E_\lambda(x)=\lambda e^x,\ \lambda=1/e \\ &c. E_\lambda(x)=\lambda e^x,\ \lambda=-e \\ &d. Q_c(x)=x^2 + c,\ c=-3/4 \\ &e. F_\mu(x)=\mu x(1-x),\ \mu=1 \\ &f. A_\lambda(x)=\lambda \tan^{-1}x,\ \lambda=1 \\ &g. A_\lambda(x)=\lambda \tan^{-1}x,\ \lambda=-1 \end{aligned}$$

解答

全部の詳細を記すのは大変なのでどのような分岐であるかについてだけ載せます。

a. $S'_\lambda$の固定点の分岐。パラメーターが増えるにつれ固定点の数は$1\to1\to3$と変化する。
b. $E_\lambda$の固定点の分岐。パラメーターが増えるにつれ固定点の数は$2\to1\to0$と変化する。
c. $E_\lambda$の2周期点の分岐。パラメーターが増えるにつれ周期点の数は$3\to1\to1$と変化する。
d. $Q_c$の2周期点の分岐。パラメーターが増えるにつれ周期点の数は$1\to1\to3$と変化する。
e. $F_\mu$の固定点の分岐。パラメーターが増えるにつれ周期点の数は$2\to1\to2$と変化する。
f. $A_\lambda$の固定点の分岐。パラメーターが増えるにつれ周期点の数は$1\to1\to3$と変化する。
g. $A_\lambda$の2周期点の分岐。パラメーターが増えるにつれ周期点の数は$3\to1\to1$と変化する。

 

3.

$f$を微分同相写像とする。$f$のすべての双曲型周期点は孤立していることを示せ。

解答

実数$a<b$を$f^n(a)=a$, $f^n(b)=b$かつ$|(f^n)'(a)|, |(f^n)'(b)|\mathrlap{\,/}{=}1$とする。このとき、平均値の定理からある$c\in[a, b]$が存在し、

$$|f^n(a)-f^n(b)| = |(f^n)'(c)(a-b)|$$ を満たす。$a, b$はどちらも周期点であるから、左辺は$|a-b|$と等しい。即ち、

$$\begin{aligned} |a-b|&=|(f^n)'(c)||a-b| \\ 1&=|(f^n)'(c)| \end{aligned}$$ を満たす。
今、$|a-b|\to0$の極限をとれば、$|(f^n)'(c)|\to|(f^n)'(a)|\mathrlap{\,/}{=}1$である。しかし、これは矛盾。

 

4.

双曲型周期点は孤立している必要はないことを例を通して示せ。

解答

$f(x)=\sin x^{-1}$は$x=0$付近で孤立していない固定点が存在する。

 

5.

他の双曲型固定点の累積点である非双曲型固定点をもつ$C^1$微分同相の例を見つけよ。

解答

問題の意味を汲み取れませんでした。解答を思いつき次第追記します。

 

6.

$-\infty<\alpha<1$における力学系の族$f_\alpha(x)=x^3-\alpha x$について考えよ*2。分岐を引き起こす全てのパラメータ値を見つけ、それらの値で変化する$f_\alpha$の相図を記述せよ。

解答

$f_\alpha(x)$の固定点は$x=0, \pm\sqrt{\alpha+1}$である。よって、

$$\begin{aligned}&a.\hspace{3mm} \alpha < -1\text{のとき、固定点は}1つ \\ &b.\hspace{3mm} \alpha = -1\text{のとき、固定点は}2つ \\ &c.\hspace{3mm} \alpha > -1\text{のとき、固定点は}3つ \end{aligned}$$ 存在する。このことから、$\alpha=-1$が固定点に対する唯一の分岐点であると言える。
 $f_\alpha$は素周期が$2$以上の周期点は持たないと予想していますが、証明は思いついていません。思いつき次第追記します。

f:id:ToTTi95U:20190812223815p:plain
$f_\alpha$の相図

 

7.

線形写像$f_k(x)=kx$について考える。$f_k$の相図が似ているパラメータの開集合が計4つあることを示せ。ただし、$k=0, \pm1$は例外である。

解答

  1. $(0, 1).\hspace{3mm}$符号が変化することなく全ての初期値が$0$に収束する。
  2. $(-1,0).\hspace{3mm}$符号が交互に変化しながら全ての初期値が$0$に収束する。
  3. $(1,\infty).\hspace{3mm}$符号が変化することなく全ての初期値が無限大に発散する。
  4. $(-\infty,-1).\hspace{3mm}$符号が交互に変化しながら全ての初期値が無限大に発散する。

 

今日の数学はここまで。続きはまた明日。

*1:原著ではdiscuss

*2:原著ではdiscuss

【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.4 (16日目)

前書き

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§1.4 HYPERBOLICITY

双極型

 双曲型周期点と呼ばれる周期点を持つ写像は多くの典型的な力学系を引き起こし、さらに解析するためのもっとも単純な周期挙動を提供する。

定義4.1

 $p$を周期$n$の周期点とする。点$p$が双曲型*1であるとは$|(f^n)'(p)|\mathrlap{\,/}{=} 1$であることである。数$(f^n)'(p)$は周期点の倍率*2と呼ばれる。

 

例4.2

 微分同相$f(x)=\frac{1}{2}(x^3+x)$を考える。このとき$f$は3つの固定点, $x=0, 1, -1$を持つ。$f'(0)=1/2, f'(\pm 1)=2$であることに注意すれば、それぞれの固定点は双曲型であることが分かる。

 

例4.3

 $f(x)=-\frac{1}{2}(x^3+x)$とする。$0$は$f'(0)=-1/2$であるから双曲型固定点である。いま、点$\pm 1$は周期$2$の周期軌道上にある。連鎖律から$(f^2)'(\pm 1)=f'(1)\ \cdot\ f'(-1)=4$と計算できる。それゆえ、この周期点は双曲型である。しかし、区間$(-1, 1)$の点は$0$に向けて渦巻いていくか、$\pm 1$から遠ざかっていくことに注意せよ。

上の例はどちらも$|f'(0)|\leq 1$かつ$0$に近い点は$0$に漸近している。この状況はしばしば引き起こされる。

命題4.4

$p$は$|f'(p)|\leq 1$である双曲型固定点とする。このとき、$p$を含む開区間$U$が存在し、$x\in U$に対して

$$\lim_{n\to\infty}f^n(x) = p$$

証明

 $f$は$C^1$級であるから、全ての$x\in[p-\epsilon, p+\epsilon]$に対して$|f'(x)| < A < 1$を満たすような$\epsilon>0$が存在する。平均値の定理より

$$|f(x)-p| = |f(x)-f(p)| \leq A|x-p|<|x-p|\leq \epsilon$$ それゆえ$f(x)$は$[p-\epsilon, p+\epsilon]$に含まれ、実際$x$よりも$p$に近づく。 同様の議論によって

$$|f^n(x)-p|\leq A^n|x-p|$$ であるから、$n\to\infty$のとき$f^n(x)\to p$となる。

注意

  1. 区間$[p-\epsilon, p+\epsilon]$は$p$についての安定集合$W^s(p)$に含まれている。
  2. 周期$n$の双曲型周期点についても同じような結果が成り立つ。この場合では$f^n$によって自分自身に写される開区間$U$を得ることが出来る。もちろん、このとき$|(f^n)'(p)|<1$である。

 

定義4.5

 $p$を$|(f^n)'(p)|<1$である周期$n$の双曲型周期点とする。この点$p$は吸引的周期点*3と呼ばれる。

それゆえ、周期$n$の吸引的周期点は$f^n$によって自分自身に写される近傍を持つ。そのような近傍は局所安定集合とよばれ$W^s_{loc}$と表される。吸引的不動点は$f'(p)=0, 0 < f'(p)<1, -1 < f'(p) < 0$の3つの条件によって種類分けできるだろう。

命題4.6

$p$を$|f'(p)|>1$を満たす双曲型固定点とする。このとき$p$を含むある開区間$U$が存在し、$x\in U, x\mathrlap{\,/}{=} p$に対してある$k>0$が存在して$f^k(x)\not \in U.$

証明

$f$は$C^1$級であるから、$x\in[p-\epsilon, p+\epsilon]$に対して$|f'(x)| > A > 1$を満たすような$\epsilon > 0$が存在する。平均値の定理より

$$|f(x)-p| = |f(x) - f(p)| \geq A|x-p| > |x-p|$$

よって$f(x)$は$x$よりも$p$から遠ざかる。 同様の議論を通して

$$|f^n(x)-p| > A^n|x-p|$$ $A > 1$より$n\to\infty$のとき$A^n\to\infty$であり、$|f^n(x)-p|\to\infty$。いま、$\epsilon$は有限であるから、ある$k>0$が存在して$f^k(x)\not\in [p-\epsilon, p+\epsilon].$

 

定義4.7

$|f'(p)|>1$である固定点$p$は反発的固定点と呼ばれる。命題4.6で記述された近傍を局所不安定集合と呼び$W^u_{loc}$で表す。

 その結果、双曲型周期点は周期点の微分係数に影響を受ける局所的な挙動を持つ。これは次の例で示すように、微分不可能であるか非双曲型である場合には正しくない。

例4.8

図4.1のそれぞれの写像は$f(0)=0$と$f'(0)=1$を満たすが、$0$付近の非常に異なる相図を持つ。(a)では、写像$f(x)=x+x^3$は吸引的固定点を$0$で持つ。(b)では、写像$f(x)=x-x^3$は反発的な固定点を$0$に持つ。(c)では、写像$f(x)=x+x^2$は$0$の右側では弱反発的であるが、左側では弱吸引的である。

f:id:ToTTi95U:20190810001947p:plain
図4.1 写像の相図, (a)$f(x) = x + x^3$, (b)$f(x)=x-x^3$, (c)$f(x)=x+x^2$

 ほとんどの写像は後で見るように双曲型の周期点しか持たない。しかしながら、非双曲型周期点はしばしば写像の族の中で引き起こされる。これが生じたとき、周期点はしばしば分岐する。後でより広範囲な分岐点の理論を扱う予定だが、今はいくつかの例を与えることにする。

例4.9

2次関数$Q_c(x)=x^2+c$の族について考える。ここで$c$はパラメータである。$Q_c$のグラフは対角線との交点に関して場合分けが出来る。すなわち$c>1/4, c = 1/4, c < 1/4$の3つである。$c > 1/4$のとき$Q_c$は固定点を持たないことに注意せよ。$c=1/4$のとき$x=1/2$において特徴的な非双曲型固定点を$Q_c$は持つ。そして、$c < 1/4$のとき$Q_c$は1つは吸引的でもう一つは反発的な双曲型固定点の組を持つ。したがって、$Q_c$の相図は$c$が$1/4$まで減少するとき変化する。この変化は分岐の一例である。

 

例4.10

 $F_\mu(x) = \mu x(1-x),\ \mu > 1$とする。$F\mu$は2つの固定点$0$と$p_\mu = (\mu-1)/\mu$をもつ。$F\mu'(0) = \mu$と$F_\mu(p_\mu)=2-\mu$であることに注意せよ。それゆえ、$\mu>1$について$0$は反発的であり、$1<\mu<3$について$p_\mu$は吸引的である。$\mu=3$のとき$F_\mu(p_\mu) = -1$である。$\mu$が$3$まで増加するとき、$F^2_\mu$は新しい2つの固定点をもつことに注意せよ。それらは周期$2$の新しい周期点である。これはもう一つの分岐が生じたことを意味する。つまり、$Per_2(F_\mu)$が変化する。

 この2次写像の族は一般の理論において重要な事象を確かに明示する。

今日の数学はここまで。続きはまた明日。

*1:hyperbolic

*2:multiplier

*3:attracting periodic point

【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.3 (15日目)

追記(2019/11/17). 問題7と問題8の解答を追加しました。

再開が一日遅れて申し訳ありませんでした。

前書き

この記事はRobert L. Devaney著
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An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

を1日1時間ほど読んですぐ、内容を記事に起こしたものである。これ以上詳しいことは1日目の前書きを見るべし。

 また、今までhomeomorphismを準同型写像と訳していましたが、「同相写像」の方が合っているため、今日からそのように記述します。

§1.3の演習問題

 「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」には演習問題の答えが付属していません。そのため、ここに載せた答案は間違っている可能性があります。間違い等に気づきましたらお知らせくださると助かります。

7.

$\mathbb{R}$の同相写像において、素周期(prime period)が$3$以上の周期点は存在しないことを示し、周期2の周期点を持つ同相写像を一つ取り上げよ。

解答

$f:\mathbb{R}\to\mathbb{R}$を同相写像とし、$a, b, c$を$f$の素周期が3の点の軌道とする。すなわち、$f(a) = b, f(b) = c, f(c) = a$である。ここで、$f$は単調なので仮に単調増加であると仮定する。さらに$a < b$と仮定する。このとき、$f$が単調増加であるから、

$$f(a) = b < c = f(b)$$ を得る。このことから更に

$$f(b) = c < a = f(c)$$ を得る。上の二式から$b<a$が導き出せるがこれは矛盾。$b < a$や$a < c$、$f$が単調減少の場合も同様に矛盾が生じる。ゆえに$f$は素周期が$3$以上の周期点を持たない。

 

8.

同相写像は最終的周期点を持たないことを示せ。

解答

同相写像$f:X\to X$が最終的周期点$x$を持つとする。すなわち、

$$^\exist i\in\mathbb{Z}\text{ s.t. } f^{i-1}(x) \mathrlap{\,/}{=} f^i(x) \land f^i(x) = f^{i+1}(x)$$ ゆえに、上の式の等式に各写像に$f^{-i}$を合成すれば

$$x = f(x)$$ を得る。さらに先ほどの式の不等式に各写像に$f^{-i+1}$を合成すれば

$$x \mathrlap{\,/}{=} f(x)$$ を得る。ゆえに矛盾。

 

9.

$S:S^1\to S^1$を$S(\theta) = \theta + \omega + \epsilon\sin\theta$で定義する。ここで$\omega, \epsilon$は定数である。このとき、$|\epsilon|<1$であるならば$S$は同相写像であることを証明せよ。

解答

$S$が連続であることは明らかである。$S'(\theta) = 1 + \epsilon\sin\theta$である。ここで$|\epsilon|<1$であるから常に$\epsilon\sin\theta > -1$。よって$S'(\theta) > 0$すなわち、$S$は単調増加関数である。よって$S$は単射。また、$\omega=0$のとき、$S(0)=0, S(2\pi)=2\pi$であるから、中間値の定理より$S$は全射である。一般の$\omega$に対しても、$\omega=0$のときの$S$の切片が変化するだけであるから同じく全射である。最後に、$S^{-1}$も明らかに連続であるから、$S$は同相写像である。

 

10

$f(\theta)=2\theta$を例題3.4で議論した$S^1$上の写像とする。$f$の周期点の集合は$S^1$で稠密であることを証明せよ。

解答

例題3.4の議論から周期$n$の周期点$\theta$は$\theta=2k\pi/(2^n-1)$であった。ただし、$k$は$2^n$以下の自然数である。ここで$2^n$個の点$\theta=2k\pi/(2^n-1)$は$S^1$を$2^n$等分している。よって$n\to\infty$のとき、点$\theta=2k\pi/(2^n-1)$は$S^1$を埋め尽くす。

 

11

演習問題10.における写像の最終的周期点もまた$S^1$で稠密であることを示せ。

解答

例題3.4の議論と同様にして、周期$n$の最終的周期点は$\theta=2k\pi/2^i(2^n-1)$であることが分かる。ただし、$k$は$2^{i+n}$以下の自然数である。演習問題10と同様にこの最終的周期点は$S^1$を$2^{i+n}$等分している。よって、$n\to \infty$のとき、点$\theta=2k\pi/2^i(2^n-1)$は$S^1$を埋め尽くす。

2問答えが分からない問題がありかなりハードな演習問題でした。これからも頑張りたいと思います。

今日の数学はここまで。続きはまた明日。

【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.3 (12日目)

前書き

この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

を1日1時間ほど読んですぐ、内容を記事に起こしたものである。これ以上詳しいことは1日目の前書きを見るべし。

§1.3の演習問題

 「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」には演習問題の答えが付属していません。そのため、ここに載せた答案は間違っている可能性があります。間違い等に気づきましたらお知らせくださると助かります。

1.

次の関数を電卓を使って、任意の初期値に対して反復しその結果を説明せよ。

  1. $C(x)=\cos(x)$
  2. $S(x)=\sin(x)$
  3. $E(x)=e^x$
  4. $F(x)=e^{x-1}$
  5. $A(x)=\tan^{-1}(x)$
解答
  1. 任意の初期値に対して$0.7390\cdots$に収束。
  2. 任意の初期値に対して$0$に収束。
  3. 任意の初期値に対して$+\infty$に発散。
  4. 初期値$x_0$が$x_0\leq1$ならば$1$に収束し、$x_0>1$ならば$+\infty$に発散。
  5. 任意の初期値に対して$0$に収束。

 

2.

 関数のグラフを用いて演習問題1. のそれぞれの写像の固定点を特定せよ。

解答
  1. $C(x)=\cos x$

f:id:ToTTi95U:20190727002030p:plain
固定点はおおよそ$0.739$
2. $S(x) = \sin x$

f:id:ToTTi95U:20190727002254p:plain
固定点は$0$
3. $E(x) = e^x$

f:id:ToTTi95U:20190727002025p:plain
固定点は無し
4. $F(x) = e^{x-1}$

f:id:ToTTi95U:20190727002027p:plain
固定点は$1$
5. $A(x) = \tan^{-1} x$

f:id:ToTTi95U:20190727002030p:plain
固定点は$0$

 

3.

 次の写像それぞれの周期点の一覧を作成せよ。次に$f(x)$のグラフを用いて示された区間における$f(x)$の相図をスケッチせよ。

$$\begin{aligned}a. &f(x) = -\frac{1}{2}x, &\infty < x < \infty \\b. &f(x) = -3x, &-\infty < x < \infty \\c. &f(x) = x-x^2, &0\leq x\leq 1\\d. &f(x) = \frac{x}{2}\sin(x), &0\leq x \leq \pi \\e. &f(x) = -x^2, &-\infty < x < \infty \\f. &f(x) = \frac{1}{2}(x^3 + x), &-1\leq x\leq 1\end{aligned}$$

解答
a.

$f^n(x) = (-2^{-n})x = x$の$x$についての解が周期点である。この方程式の解が$0$しかないのは明らか。よって、周期点は$0$ただ一つ。

f:id:ToTTi95U:20190727004003p:plain
$f(x)=-\frac{1}{2}x$の相図

b.

a と同じく$f^n(x) = (-3)^nx = x$の$x$についての解が周期点である。よって、周期点は$0$ただ一つ。

f:id:ToTTi95U:20190727004007p:plain
$f(x)=-3x$の相図

c.

$f(x)=x-x^2=x(1-x)=x$の解は$x{(1-x)-1}=x(-x)=0$より$x=0$。したがって、固定点は$0$のみである。また、この関数は$0\leq x\leq 1$で$0\leq f(x) \leq 1$である。よって、$f^2(x)=f(x)(1-f(x))=x$の解は$f(x)=0$すなわち$x=0$のみである。同様にして$f^3, f^4, \dots$の固定点も$0$のみであることが分かる。よって、周期点は$0$ただ一つ。

f:id:ToTTi95U:20190727004010p:plain
$f(x)=x-x^2$の相図

d.

$0\leq x \leq \pi$における$f(x)=\frac{\pi}{2}\sin(x) = x$の解は$0, \pi/2$である。$f^2(x)=\frac{\pi}{2}\sin f(x) = x$の解は$f(x)$が$0$から$\pi/2$までの値しかとらないことから、最初にそのような場合において$0, \pi/2$しか解を持たないことが分かっているので、解の可能性があるのは$0, \pi/2$である。実際、$0, \pi/2$は$f^2(x)=x$の解となっている。同様にして$f^3, f^4,\dots$の固定点が$0, \pi/2$であることも分かる。ゆえに周期点は$0$と$\pi/2$のみである。

f:id:ToTTi95U:20190727004013p:plain
$f(x)=\frac{\pi}{2} \sin x$の相図

e.

$f^n(x) = (-1)^nx^{3^n}$であるから、$f^n(x) = x$の解は

$$x{(-1)^n x^{3^n-1}-1}=0$$ によって与えられる。$n$が偶数のとき$(-1)^n x^{3^n-1}$は常に正となり、解は$x=0$のみである。$n$が奇数のときは$(-1)^n x^{3^n-1}$は常に負であるから、解は$x=0, \pm1$である。従って、周期点は$0, \pm1$の3つである。

f:id:ToTTi95U:20190727004017p:plain
$f(x)=-x3$の相図

f.

$f(x) = \frac{1}{2}(x^3+x)=x$の解は簡単な式変形によって$x=0, \pm1$であることが分かる。ここで$f(x)$は問題の条件では$-1\leq f(x)\leq 1$であることに注目すると、$f^2(x)=\frac{1}{2}(f(x)^3+f(x))=x$の解は$x=0,\pm1$であることが分かる。同様にして$f^3,f^4,\dots$の固定点も$x=0, \pm1$であることが分かるので、周期点は$0, \pm1$の3つ。

f:id:ToTTi95U:20190727004021p:plain
$f(x) = \frac{1}{2}(x^3+x)$の相図

今日の数学はここまで。続きはまた明日。

【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.3 (11日目)

前書き

この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

を1日1時間ほど読んですぐ、内容を記事に起こしたものである。これ以上詳しいことは1日目の前書きを見るべし。

Jacobi's Theorem

 例3.11と、もう一つ大事な円周上の写像の種類は平行移動の写像である。

例3.12 (円の平行移動)

 $\lambda\in\mathbb{R}$と$T_\lambda(\theta)=\theta+2\pi\lambda$とする。写像$T_\lambda(\theta)$は$\lambda$が有理数無理数かによって挙動が大きく異なる。もしも$p, q\in\mathbb{Z},\ q \mathrlap{\,/}{=}0$として$\lambda=p/q$であるならば、$T^q_\lambda(\theta) = \theta + 2\pi p = \theta$であるから、全ての点は$T^q_\lambda$によって固定される。$\lambda$が無理数のときには状況は大きく異なる。次の結果はJacobiの定理として知られているものである。

 

定理3.13

 軌道$T_\lambda$は$\lambda$が無理数であるとき、$S^1$で稠密である

証明

 $\theta\in S^1$とする。$\theta$の軌道の点は異なる。なぜならば、$T^n_\lambda(\theta) = T^m_\lambda(\theta)$であるならば、$(n-m)\lambda\in\mathbb{Z}$を得ることによって$n=m$となるからである。円周上の点の無限集合は必ず極限を持つ。したがって、与えられた任意の$\epsilon>0$に対して$|T^n_\lambda(\theta)-T^m_\lambda(\theta)| < \epsilon$*1となるような$n$と$m\ $が存在しなければならない。ここで $k=n-m\ $とすると$|T^k_\lambda(\theta)-\theta|<\epsilon$である。

 今、$T_\lambda$は$S^1$で長さを保つ。つまり、写像$T^k_\lambda$は$\theta$から$T^k_\lambda(\theta)$、$T^k_\lambda(\theta)$から$T^{2k}_\lambda(\theta)$への長さが$\epsilon$未満となるような円弧を描く*2。特に点$\theta, T^k_\lambda(\theta), T^{2k}_\lambda(\theta),\dots$は$S^1$を長さが$\epsilon$以下であるような円弧に分割する。$\epsilon$は任意であったから、これで証明終了である。

今日の数学はここまで。続きはまた明日。

*1:$T^n_\lambda(\theta)$または$T^m_\lambda(\theta)$に収束する数列

*2:$|T^k_\lambda(\theta)-T^{2k}_\lambda(\theta)|$は$2\pi k\lambda$であり、これは$|T^n_\lambda(\theta)-T^m_\lambda(\theta)|$と同じである。