ToTTi95Uのメモ帳

数学関係のメモ書き

【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.5 (20日目)

前書き

この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

An Introduction To Chaotic Dynamical Systems, Second Edition (Addison-Wesley Studies in Nonlinearity)

を1日1時間ほど読んですぐ、内容を記事に起こしたものである。これ以上詳しいことは1日目の前書きを見るべし。

$\mu>4$のときの二次関数族

前節の例4.10において$\mu$の値が$3$を超えると$F_\mu$のダイナミクスは周期$2$の新たな周期点が生まれるなどして、より複雑になる。
 今は$\mu>4$の場合に集中しよう。この説の残りのにおいて$F_\mu$の添え字$\mu$は削って$F$とだけ表記することにする。昨日と同じく、すべての$F$の面白いダイナミクスは単位区間$I:=[0,1]$の中で起こる。$\mu>4$であれば$F$の最大値$\mu/4$は$1$よりも大きくなることに注意せよ。それゆえ、$F$によって$I$を跳び越してしまう点が存在する。そのような点の集合を$A_0$と表すことにする。明らかに$A_0$は$1/2$を中心にした開区間で、$x\in A_0$ならば$F(x)>1$であり、それゆえ$F^2(x)<0$で$F^n(x)\to-\infty$という性質を持つ。
 $A_1 := {x\in I|F(x)\in A_0}$とする。$x\in A_1$ならば、$F^2(x)>1, F^3(x)<0$であるから、$A_0$と同様に$F^n(x)\to-\infty$となる。帰納的に$A_n:={x\in I|F^n(x)\in A_0}$とする。$A_n$の全ての点は$n+1$回目の反復で$I$からはみ出す。よって、$x$が$A_n$に属しているならば、$x$の軌道は最終的に$-\infty$に向かう傾向にある。私たちは$A_n$に属するすべての点の最終的な運命をしったので、解析を残しているのは$I$から決してはみ出さない点の軌道だけてあり、言い換えるとそのような点の集合は

$$I-\left(\bigcup^\infty_{n=0} A_n\right)$$ である。この集合を$\Lambda$で表す。最初の疑問は「どの点がこの集合に含まれているか?」である。$\Lambda$を理解するために、より注意深く再帰的な構造をこれから記述していく。
 $A_0$は$1/2$を中心にした開区間であるから、$I-A_0$は二つの閉区間、左の$I_0$と右の$I_1$からなる。
 $F$の制限$F|_{I_0}:I_0\to I$と$F|_{I_1}:I_1\to I$は全単射であることに注意せよ。このとき$F$は$I_0$では増加、$I_1$では減少する。$F(I_0)=F(I_1)=I$であるから、$F$によって$A_0$に写される開区間の組(片方は$I_0$に含まれ、もう片方は$I_1$に含まれる)が存在する。それゆえ、この組が$A_1$である。
 さらに$I-(A_0\cup A_1)$について考えていく。この集合は四つの閉区間で構成され、それぞれの元を$I_0$または$I_1$の元に一対一で対応させる。結果として、$F^2$はそれぞれを$I$上*1に写す。従って、$F^2$によって$A_0$上に写される部分区間を$I-(A_0\cup A_1)$に含まれる四つのそれぞれの区間が有することが分かる。よって、それらの区間の点は$F$の三回目の反復によって$I$からはみ出す。
 これを続けていくと、2つの事実に行きつく。まず一つ目に、$A_n$は$2^n$個のバラバラな開区間から構成されている。それゆえ、$I-(A_0\cup \dots\cup A_n)$は$2^{n+1}$個の閉集合で構成される。二つ目に、$F^{n+1}$はそれらの閉集合を$I$上に単調に写す。実際、$F^{n+1}$のグラフはそれらの区間で増加と減少を交互に繰り返す。したがって、$F^{n+1}$のグラフにはちょうど$2^n$個の山が$I$上にある形となり、それゆえ$F^n$は少なくとも$2^n$個の固定点を持つ、もしくは同値であるが、$Per_n(F)$は$I$の$2^n$個の点で構成される。明らかに、$\Lambda$の構造は前日の状況$\mu<3$のときと比べて$\mu>4$のときの方がかなり複雑になっている。
 $\Lambda$の構造はCantorの三進集合*2を想起させる。つまり、$\Lambda$は一連の閉区間の「中央」から開区間を連続して削除することによって得られている。

定義 5.4

 集合$\Lambda$がCantor 集合であるとは、それが平集合であり、完全に非連結であって、かつ$I$の完全な部分集合*3であることである。集合が非連結であるとは、いかなる区間をも含まないことを指す。集合が完全*4であるとは、それに含まれるすべての点が累積点*5であるか、集合の他の点による極限であることをいう。

 

例 5.5 (Cantorの三進集合)

 これはCantor 集合の古典的な例である。始めに$I$から、"中央三分の一" i.e. 区間$(\frac{1}{3},\frac{2}{3})$を消す。次に残ったものから2つの中央三分の一 i.e. 区間$(\frac{1}{9},\frac{2}{9})$と$(\frac{7}{9}, \frac{8}{9})$を消す。この流れのまま中央三分の一を消し続ける。ここで$n$回目のこの手順では$2^n$個の開集合が削除されることに気を付けよ。従って、この方法は$\Lambda$の構造と完全に相似である。演習問題7.ではCantorの三進集合が確かにCantor 集合の定義を満たすことを示す。

 $\Lambda$がCantor 集合であることを保証するために、追加の前提を$\mu$に課す必要がある。$\mu$は全ての$x\in I_0\cup I_1$に対して$|F'(x)|>1$を満たすとする。これは$I_0$と$I_1$の$A_0$に接する端点で最も$|F'(x)|$が小さいことを利用して、$|F'(x)|=1$の方程式を解けば、$\mu>2+\sqrt{5}$を満たすことと同値であることが簡単にわかる。それゆえ、そのような値の$\mu$について、ある$\lambda>1$が存在して全ての$x\in \Lambda$に対して$|F'(x)|>\lambda$を満たす。連鎖律から同様にして$|(F^n)'(x)|>\lambda^n$が導かれる。$\Lambda$がいかなる区間をも含まないことを主張したい。そのために$x, y\in\Lambda, x\mathrlap{\,/}{=} y$であって、$[x,y]\subset\Lambda$とする。すると、全ての$\alpha\in[x, y]$に対し$|(F^n)'(\alpha)|>\lambda^n$である。$n$を選択して$\lambda^n|y-x|>1$とする。平均値の定理から、$|F^n(y)-F^n(x)|\geq \lambda^n|y-x|>1$が導かれ、これは少なくとも$F^n(x)$または$F^n(y)$が$I$の外に存在することを示している。しかし、これは矛盾である。よって、$\Lambda$は完全に非連結である。


今日の数学はここまで。続きはまた明日。

*1:原著ではonto.全射であることを意味する

*2:Cantor Middle Thirds set.日本語ではCantor(カントール)の集合とも呼ばれる。今回は同じ語を別の場所で使用するため三進とついたものを採用した。

*3:perfect subset

*4:2019年8月15日追記。真部分集合も完全な部分集合と書き換えました。

*5:accumulation point. $x$が累積点であるとき、$x$を含む任意の開区間は$x$以外の点を含みます。