【数学書は1日1時間】An Introduction to Chaotic Dynamical Systems §1.5 (20日目)
前書き
この記事はRobert L. Devaney著
「An Introduction to Chaotic Dynamical Systems Second Edition」
- 作者: Robert Devaney
- 出版社/メーカー: Westview Press
- 発売日: 1989/01/21
- メディア: ハードカバー
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$\mu>4$のときの二次関数族
前節の例4.10において$\mu$の値が$3$を超えると$F_\mu$のダイナミクスは周期$2$の新たな周期点が生まれるなどして、より複雑になる。
今は$\mu>4$の場合に集中しよう。この説の残りのにおいて$F_\mu$の添え字$\mu$は削って$F$とだけ表記することにする。昨日と同じく、すべての$F$の面白いダイナミクスは単位区間$I:=[0,1]$の中で起こる。$\mu>4$であれば$F$の最大値$\mu/4$は$1$よりも大きくなることに注意せよ。それゆえ、$F$によって$I$を跳び越してしまう点が存在する。そのような点の集合を$A_0$と表すことにする。明らかに$A_0$は$1/2$を中心にした開区間で、$x\in A_0$ならば$F(x)>1$であり、それゆえ$F^2(x)<0$で$F^n(x)\to-\infty$という性質を持つ。
$A_1 := {x\in I|F(x)\in A_0}$とする。$x\in A_1$ならば、$F^2(x)>1, F^3(x)<0$であるから、$A_0$と同様に$F^n(x)\to-\infty$となる。帰納的に$A_n:={x\in I|F^n(x)\in A_0}$とする。$A_n$の全ての点は$n+1$回目の反復で$I$からはみ出す。よって、$x$が$A_n$に属しているならば、$x$の軌道は最終的に$-\infty$に向かう傾向にある。私たちは$A_n$に属するすべての点の最終的な運命をしったので、解析を残しているのは$I$から決してはみ出さない点の軌道だけてあり、言い換えるとそのような点の集合は
$$I-\left(\bigcup^\infty_{n=0} A_n\right)$$
である。この集合を$\Lambda$で表す。最初の疑問は「どの点がこの集合に含まれているか?」である。$\Lambda$を理解するために、より注意深く再帰的な構造をこれから記述していく。
$A_0$は$1/2$を中心にした開区間であるから、$I-A_0$は二つの閉区間、左の$I_0$と右の$I_1$からなる。
$F$の制限$F|_{I_0}:I_0\to I$と$F|_{I_1}:I_1\to I$は全単射であることに注意せよ。このとき$F$は$I_0$では増加、$I_1$では減少する。$F(I_0)=F(I_1)=I$であるから、$F$によって$A_0$に写される開区間の組(片方は$I_0$に含まれ、もう片方は$I_1$に含まれる)が存在する。それゆえ、この組が$A_1$である。
さらに$I-(A_0\cup A_1)$について考えていく。この集合は四つの閉区間で構成され、それぞれの元を$I_0$または$I_1$の元に一対一で対応させる。結果として、$F^2$はそれぞれを$I$上*1に写す。従って、$F^2$によって$A_0$上に写される部分区間を$I-(A_0\cup A_1)$に含まれる四つのそれぞれの区間が有することが分かる。よって、それらの区間の点は$F$の三回目の反復によって$I$からはみ出す。
これを続けていくと、2つの事実に行きつく。まず一つ目に、$A_n$は$2^n$個のバラバラな開区間から構成されている。それゆえ、$I-(A_0\cup \dots\cup A_n)$は$2^{n+1}$個の閉集合で構成される。二つ目に、$F^{n+1}$はそれらの閉集合を$I$上に単調に写す。実際、$F^{n+1}$のグラフはそれらの区間で増加と減少を交互に繰り返す。したがって、$F^{n+1}$のグラフにはちょうど$2^n$個の山が$I$上にある形となり、それゆえ$F^n$は少なくとも$2^n$個の固定点を持つ、もしくは同値であるが、$Per_n(F)$は$I$の$2^n$個の点で構成される。明らかに、$\Lambda$の構造は前日の状況$\mu<3$のときと比べて$\mu>4$のときの方がかなり複雑になっている。
$\Lambda$の構造はCantorの三進集合*2を想起させる。つまり、$\Lambda$は一連の閉区間の「中央」から開区間を連続して削除することによって得られている。
定義 5.4
集合$\Lambda$がCantor 集合であるとは、それが平集合であり、完全に非連結であって、かつ$I$の完全な部分集合*3であることである。集合が非連結であるとは、いかなる区間をも含まないことを指す。集合が完全*4であるとは、それに含まれるすべての点が累積点*5であるか、集合の他の点による極限であることをいう。
例 5.5 (Cantorの三進集合)
これはCantor 集合の古典的な例である。始めに$I$から、"中央三分の一" i.e. 区間$(\frac{1}{3},\frac{2}{3})$を消す。次に残ったものから2つの中央三分の一 i.e. 区間$(\frac{1}{9},\frac{2}{9})$と$(\frac{7}{9}, \frac{8}{9})$を消す。この流れのまま中央三分の一を消し続ける。ここで$n$回目のこの手順では$2^n$個の開集合が削除されることに気を付けよ。従って、この方法は$\Lambda$の構造と完全に相似である。演習問題7.ではCantorの三進集合が確かにCantor 集合の定義を満たすことを示す。
$\Lambda$がCantor 集合であることを保証するために、追加の前提を$\mu$に課す必要がある。$\mu$は全ての$x\in I_0\cup I_1$に対して$|F'(x)|>1$を満たすとする。これは$I_0$と$I_1$の$A_0$に接する端点で最も$|F'(x)|$が小さいことを利用して、$|F'(x)|=1$の方程式を解けば、$\mu>2+\sqrt{5}$を満たすことと同値であることが簡単にわかる。それゆえ、そのような値の$\mu$について、ある$\lambda>1$が存在して全ての$x\in \Lambda$に対して$|F'(x)|>\lambda$を満たす。連鎖律から同様にして$|(F^n)'(x)|>\lambda^n$が導かれる。$\Lambda$がいかなる区間をも含まないことを主張したい。そのために$x, y\in\Lambda, x\mathrlap{\,/}{=} y$であって、$[x,y]\subset\Lambda$とする。すると、全ての$\alpha\in[x, y]$に対し$|(F^n)'(\alpha)|>\lambda^n$である。$n$を選択して$\lambda^n|y-x|>1$とする。平均値の定理から、$|F^n(y)-F^n(x)|\geq \lambda^n|y-x|>1$が導かれ、これは少なくとも$F^n(x)$または$F^n(y)$が$I$の外に存在することを示している。しかし、これは矛盾である。よって、$\Lambda$は完全に非連結である。
今日の数学はここまで。続きはまた明日。